Chocolate palette. 【A3！】 (ページ8)

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｢ ……櫻宮さん。こんな所で何してんの？｣

｢わ、あ、茅ヶ崎、さん｣

至の耳に届いた声の主は、誰もいない談話室の隅っこに座り込んでいた。目の前にかまえていたスマホから視線を至に移す。見上げる瞳はいつもみたいに大きくて、今にも零れてしまいそうだ。

震えるスマホに目線を送れば、彼女は同じように震えた声でぽつりぽつりと語り出した。
なんでもこの間の合コンで知り合った男からしつこいくらいの連絡を受けていて、困っているらしい。彼女、櫻宮Aが合コンに行っていたこと自体驚きだが、それよりも泣きそうな彼女の顔を見ては放っておけないだろう。

至が彼女に目配せする。不思議そうに目を丸める彼女に手を差し出した。スマホを貸してほしい、という意を込めて。察したようにハッとした彼女は、すぐにスマホを至に手渡す。手慣れた画面を操作して、その画面のままそれを持ち主の元へ返した。
彼女が画面を確認して、ぱっと顔をあげる。今の自分はどんな顔をしているのだろうか。きっと上手く笑えているはずだ。

｢俺のLIME、いれといたから｣

｢え、え、あの…… ｣

｢何かあったらいつでも連絡して｣

目を伏せて、ありがとう、と零す。
見上げた至の瞳は、あまりに綺麗すぎたのかもしれない。そっと視線をそらした彼女に、相変わらず優しく微笑みかけるのは、自分でも知らなかった淡いガーベラの浅紅色だ。

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｢あの……茅ヶ崎さん｣

あれから数日、どうやら至のアドバイスに従った彼女は、男からの連絡がかなり減ったという。良かった、とLIMEを送った至は、本当に大きく息を吐いていた、と寮の仲間からの証言もあるほどだ。彼女が笑みを見せるようになったことは、想像以上に嬉しかった。
そんな彼女が至に手渡したもの。可愛らしいピンクのリボンで口を綴じられた小さな袋の中に詰められているのは、鮮やかな桜色のキャンディーだ。なんとも可愛らしい、彼女らしいもの。思わず首をかしげれば、彼女は少し照れくさそうに言った。

｢その、このあいだのお礼です｣

｢このあいだ？ああ、もしかして合コンの？｣

｢そうです。心ばかりですけど、｣

｢こんな几帳面に包装しなくてもいいのに、｣

｢今日は、バレンタイン……ですから｣

キス、というのは一口大のキャンディーのこと。甘い響きのその中には、酸っぱさだってほんの少しの辛さだって隠れている。

浅紅のベーゼは、彼女からの甘いキスだ。