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店舗ヘルプに来てから6日目。
明日でラスト、明後日からはキャンペーンも終わるため本社に戻る。
「こんにちは、Aちゃん」
「いらっしゃいませ、紬くん。いつものでいいかな?」
決まって頼むうちの店オリジナルのブレンドコーヒー。
このやり取りも明日で最後かあ。なんて思うと少し寂しい。
「うん、あとこれもひとつお願いします」
そう言って紬くんがカウンターに出したのはバレンタイン期間限定発売しているガトーショコラだった。
「今日はお店で食べていくの?」
「うん、少し時間があるんだ。Aちゃん休憩はいつごろ?」
「30分後くらいかな」
「一緒にどうかな?」
突然のお誘いに驚きを隠せなかった。
紬くんとまたこうやってお話が出来ると思わなかったから。
それから紬くんはコーヒーとガトーショコラを持って、店の端の静かな席に座って待っていた。
休憩どうぞ、と他の店員さんに言われたのでエプロンを外して自分の分のコーヒーを入れ紬くんの待つ席に向かった。
「お待たせ」
「お疲れさま」
紬くんは台本を読み込んでいたようで、私が声を掛けてから顔を上げた。
昔から変わらないね、そういう所。
「これ、ガトーショコラ?っていうのかな」
「うん、そうだよ」
「Aちゃん、俺にくれたよね」
「え?」
何のことを言っているのか思い出せなかった。
紬くんに手作りお菓子をあげたことなんて、記憶に無い
「あ、うーん。厳密に言えば、丞から貰ったんだけど…」
そうだ、思い出した。
私、紬くんにあげようと思っていたバレンタインはガトーショコラを作っていた。
渡せなくて高遠くんに押し付けたはずだったけど。
「あ、」
「ごめん、俺あの時練習だと思ってて」
「あ、ううん。大丈夫、もう6年も前のことだし」
嘘、本当は毎年思い出していた。
あの時ちゃんと渡せてればな、なんて。
「俺は良くないよ」
「え?」
「だって、俺はずっとAちゃんが好きだったから」
突然の告白に何も返事が出来ず、固まるだけだった。
好きだった、その言葉が過去形だと言うことに悲しいような安心したような気がして。
「じゃないと、こんなに毎日お店にも通わないよ。ガトーショコラも忘れないしね。」
「え、」
「来年は、ちゃんと貰いたいな」
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作者名:Chocolate palette.製作委員会 x他4人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2018年2月14日 21時