Chocolate palette. 【A3！】 (ページ30)

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この一言が悪かったんだろう。
でも、あの頃の私はバレンタインを彼に渡すことで頭がいっぱいでそんなこと気にしていられなかった。

紬くんの顔が、役に切り替わる瞬間を見逃してしまっていたんだ。

「なに？」

「あの、これ良かったら…」

「ごめん、貰えないよ。」

それを拒絶と私は受け取ったから。
悲しくて、恥ずかしくて、その場を逃げ去った。
途中で高遠くんにぶつかってしまったが、謝れるほど余裕が無くて。
苦し紛れに丁寧にラッピングしたそれを高遠くんに押し付けて、私は逃げた。

そしてそのまま、高校を卒業した。

あれから6年。
もうすぐまたこの季節がやってくる。

傷付いた心はさすがに癒えている。
長い月日が、傷を癒してくれていた。

ちょっぴり苦い思い出と化していた。

「おはようございます、今日から１週間よろしくお願いします」

カフェを経営する会社に就職した私は、バレンタインまでの期間ヘルプとして店舗に入ることになっていた。

バレンタイン期間売り出したい商品があるとの事で、集客を見込んだヘルプ社員だ。

カウンターに立つのは久しぶりだなあ、なんてのんびり考えながら珈琲の香りに包まれ穏やかな時間を過ごしていた。

「すみません、ブレンドコーヒーをひとつ」

どこか聞き覚えのある声は私の心拍数を一気に上げた。

「あ、はい。サイズは…」

「あれ、もしかしてAちゃん…？」

久しぶりに見た紬くんは高校の頃より少し大人っぽくなっていて、でも優しく話す声は変わっていなかった。

「久しぶりだね、ここで働いてるの？」

「あ、うん。本社からのヘルプで来てるの、」

「そっか、俺よくここに通わせてもらってるんだ」

優しく笑う顔も昔と変わらなくて。
やっぱり好きなだなあ、なんて再会して3分も経たないうちに思ってしまった。

一週間後には、ここに来なくなるというのに。

それから3日連続で、紬くんはお店に通ってくれた。
いや、私が来る前から毎日来てくれていたのかもしれないけど。

注文を受ける時、少しだけおしゃべりをする。
それが楽しみとなっていた。

「じゃあ、また明日」
そう言ってお店を出ていく紬くんの背中を見れるのはあと、3日。

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