ノスタルジア / 斑鳩三角 ページ17
時刻は逢魔時。ほんのりと色付いた空気が冷たくなって、三角の頬を横切った。寒い。冷えきった指先を上着の袖で隠し、もう一方は悴んでしっかりとしない力を込めて紙袋を握る。ちらほらと降った雪がコンクリートを染めて、まだらに出た灰色を濃くしていく。マフラーをしていけと言われたのを忘れて後悔したのはつい今のことで少し寂しい口元をそのままに目線を街に向けた。
『ーーばれんたいん?』
その日はバレンタインの特集番組の日。男だらけのこの劇団で唯一の女性は監督と三角の彼女だけだった。特に色付くわけでもないふたりの様子を見ていればバレンタインなんて大したことないと思ってしまうのも無理はない。そんなのも知らないの、と言わんばかりの幸の顔がすぐそこにあった。
「女の子が好きな人にチョコを渡すんだよ」
夏組のミーティングはよく話が脱線する。それに誰も注意をしなく話にのめり込んでしまうのが最年少組の悪いところ。リーダーの天馬も経験だけは豊富だがまだ子供であり、「俺も知ってる」と自慢げそうに笑う。
「毎年ファンの子から貰うからな」
「やば!テンテンモテモテ!」
「リズミカルに言うな」
そんな天馬に椋は微笑する。でも最近は義理チョコってのも流行ってるんだとか。そんな話に食いつくのは天馬と椋だけで 幸は興味なさそうにテレビのチャンネルを変えている。やっぱりオレとみんなは違うなあと過去に貰ったチョコレートの話だとか、告白の話で盛り上がるメンバーを見て思ってしまうのだ。
「三角星人はAから貰うんでしょ?」
気を利かせたように幸が話を三角に振る。ボーッとしていた三角は我にかえったものの 彼女の名前に微かに頬を引き攣らせた。ら
「は?まだ仲直りしてない?」
三角といえば物腰の柔らかい人。喧嘩をする、というより仲裁に入ることや場を和ませる方が多い。その素直な性格で悪いことがあればすぐ謝る彼を誰も否定できないのだ。だからこそ、三角が譲らずに口を利かないまで引かなかったその喧嘩は夏組にとって理解し難い。もうかれこれ喧嘩をして一週間が経とうとしていた。
それから暫く経って今日はバレンタイン。バイト先の人たちから、お客さんから、たくさんのチョコレートを貰えたことは嬉しいのだけど、折角のバレンタイン、初めてのチョコレートは彼女から貰いたかった なんてのは心に留めていたが。三角の口の端から漏れた息が白く染まったとき、「すみー」と聞きなれた彼の声が聞こえた。
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作者名:Chocolate palette.製作委員会 x他4人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2018年2月14日 21時