お隣さん（ytin） (ページ4)

今日:3 hit、昨日:8 hit、合計:729 hit

○３○ ページ4

in

ハッと目を覚ます。

心臓が強く脈打っていて、必死に枕元のケータイを探した。

脳内で遅刻だ！と繰り返し流れ続けるアラーム。

「え…」

見つかったのはケータイではなく、伸びた腕と、背後で眠る男。

思考回路はショート寸前だった。

「誰……」

「んー…」

小さく唸り声を上げたその男の腕に搦め取られ、胸板に顔が埋められる。

昨日の記憶がじわじわと蘇り始め、耳まで血流が行き届いていくのがわかった。

その前に何か考えていたはず…

「遅刻だ！」

今度こそケータイを見つけて画面をつける。4:59の字を見て安堵した。

「おはよう」

「おはよう、ございます…」

眠そうに目を擦る姿も様になっていて困る。もっと困惑することが起こっているのにいの一番に考えた。

「今日も仕事なの？」

「朝までの仕事があって」

はぁ、とため息をついたと思えば

「辞めなよ、仕事」

突然の発言に目をぱちくりするしかなかった。

「辞職代行もあるし、行かなきゃいいだけだよ」

行かなければいい、その発言がなんだか新鮮に思えた。

仕事とは必死にやるもので、絶対に辞められないという認識が何故か分からないが心のどこかにあった。

黙りこくる俺を見て、その人はもう一度ため息を吐く。

「行かさないよ」

低い声、凄みを含んだその声に思わず唾を飲んだ。

「わかった？」

有無を言わさぬその声にコクコクと頷くことしか出来ない。

「今、メール打って、連絡先全部ブロックしな」

見つめられる中で画面を滑る指先は震えていて、麻痺していた感情が戻ってくるような感覚になる。

「し、しました……」

「よかった」

さっきまでの言動が嘘だったかのように微笑まれ、それに胸が高鳴る自分が情けないが、どうしようもない。

「もうちょっと寝かせて」

また引き込まれて腕の中。

もはや状況を理解するのを諦め、自分も目を閉じた。

・