にゃんが三十六匹 ページ36
長い時間に感じた。
胸が張り裂けるぐらい切なくて。でもとても甘くて。
ゆっくり唇が離れると、私は涙を我慢することができなかった。
「A」
優しい声がして、私は杏寿郎さんに涙を見せないように俯いた。
「どうか泣かないで欲しい」
少しカサついた指先が私の頬に触れた。
私はその指先に自分の手を重ね、目を閉じた。
「…杏寿郎さん達が居なくなっても、またいつも通り頑張るので、心配しないでください」
「君は少し抜けているところはあるが、基本はしっかりしているからな」
「はい、私はしっかり者ですから」
私はゆっくり目を開けて、杏寿郎さんの手を離した。
涙を拭いて笑うと、杏寿郎さんも眉を下げて笑った。
その後私達は一言も喋らずに、家へと帰った。
決して離れないようにしっかりと手を繋いで。
***
「あれ、Aさん、目が腫れてますよ?どうしたのですか?」
朝、千寿郎くんに起こされて言われた第一声がこれだった。
「昨日、感動する映画を深夜に見ちゃってね、涙が止まらなくって」
深夜、帰った後も沢山布団の中で泣いた。
寂しくて、悲しくて、二人がいなくなった部屋を想像してしまい余計に涙が止まらなかった。
「Aさん…」
「あっ、もうこんな時間!早く準備しないと!」
私は立ち上がろうとしたが、その瞬間力が抜けるようにぐらりと視界が反転した。
「Aさん!!」
千寿郎くんの声が響いた瞬間、勢いよく扉が開き杏寿郎さんがかけつけた。
「A!!」
杏寿郎さんの顔は酷く焦っているように見えた。こんな表情の杏寿郎さんは初めてで驚いてしまう。
「Aさん、すごい熱です…まさかとは思いますが、会社に行くなんて事は…」
「A、会社に電話をかけるか?今日は休むべきだ」
私は38度の熱を出し、休むことになった。
どうして、熱なんか。
今日は仕事に打ち込もうと思ってたのに。
「Aさん、買い物に行ってきますね」
「千寿郎くん、一人で大丈夫…?杏寿郎さんがついて…」
「いえ!一人で大丈夫です。今日は雨が降りそうにもないですし。一応折りたたみ傘も持っているので」
今日に限って、杏寿郎さんと二人きりになるとは。
バタンっと玄関の扉が閉まる音がした。
私は目を閉じた。
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丸(プロフ) - グミさん» わぁぁ!!グミさま〜!!お優しいコメントをありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。グミさまの心を少しでもホワホワさせることができたのなら幸いです!こちらこそ長い間お付き合い下さりありがとうございました!<(_ _*)> (1月30日 11時) (レス) id: fa76bf1609 (このIDを非表示/違反報告)
グミ - 途中まで読んでいて、でも忙しくて全然読めてなかったのですが、ちらっと除くと完結、と出ていたので一気読みしてしまいました!2人と別れる時、涙が溢れてきました。でも!再会できて良かったです!!しあわせになって、良かった…!コメント失礼しましたm(*_ _)m (1月30日 6時) (レス) @page50 id: 9cb77040e4 (このIDを非表示/違反報告)
丸(プロフ) - maxiahさん» お久しぶりです!maxiah様!(*´∇`)心が浄化されましたか!それは光栄の極みです!!長い間おやすみしていたのにも関わらずお優しいお言葉胸にしみます(*/-\*)素敵なコメントをありがとうございました!m(_ _)m (2022年4月7日 17時) (レス) id: fa76bf1609 (このIDを非表示/違反報告)
maxiah(プロフ) - お久しぶりに拝見させていただきました。はぁ心が浄化されます。好きです。 (2022年4月6日 22時) (レス) @page37 id: f2fb6597c0 (このIDを非表示/違反報告)
龝(プロフ) - 墨染さん» わぁぁ!墨染さまっ!こんばんは!こちらこそ、墨染さまとお話する時は安らぎの一時です!いつもありがとうございますm(_ _)mこれからも、墨染さまを幸せにできるようなお話作りを頑張ります…!(*´▽`*) (2021年7月6日 22時) (レス) id: fa76bf1609 (このIDを非表示/違反報告)
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