子猫と勘違いして煉獄兄弟拾って来てしまった女性の話。

にゃんが二十六匹 ページ26

「頼む、あと少しだけでいい、お願いだから」
「…っ」

腰に触れられて距離が縮まり、少し怖くなる。
と同時にどうしよう。二人はちゃんと折りたたみ傘持ってたっけ…？と呑気なことを考える自分もいる。

その時、明るい色が視界に入ってくる。



「Aの腰に気安く触れないでくれないか！」
「Aさんっ！！」



腰から手が離れたと同時に二人に抱きつかれる。
杏寿郎さんは背中に抱きつくバックハグ。
千寿郎くんは前から抱きついてくる。



つまりとんでもない修羅場に周りは見えているだろう。
というか、多分修羅場。



まずい、松尾。
松尾にとんでもなく申し訳ない事をしてしまった。



「松尾…」
「っ、…同居人…」



松尾は悲しそうな顔をしている。
あぁ、これは…やってしまった。

友情が壊れる気がした。




「あの、同居人の人ね、少し日本に慣れていなくて…」
「おもいっきり日本語喋れてんじゃねぇか！」
「Aに強い口調で怒鳴りつけないで欲しい！」
「あんたは黙っててくれ！」
「む！？」



だんだん雨が…。



「杏寿郎さん、千寿郎くん、傘、持って来ていますか？」
「はいっ、Aさん」
「うむ、持って来ている！」
「濡れないように、急いでさしてください！！」


そう言えば二人とも傘を差すので一応安心。




「松尾、本当にごめん…、同居人はね、本当にこの日本に慣れていないの。だから、付き合うとか、そういう余裕が今は無いんだ。だから、本当にごめんなさい！！」
「…記憶喪失とかなのか？」
「え？」



松尾は心配そうに聞いてきた。


「二人は体が弱いとかそういう類なのか？」
「え？」
「浅妻が雨に濡れないように凄く二人を心配してるからよ、何か重い…いや、わりぃ、深く聞くのは良くないよな…」




松尾は眉を下げて、頭を下げた。



「俺もごめん、浅妻がいつも早く帰ったり、そういうの見て大変そうだなというのは薄々分かってたが、強引に休みを奪って、自分の欲のためデートを持ちかけたり、本当にごめん！！」
「え、いや、松尾は別に…」


松尾は引かなかった。



「もし、何か俺でも力になれる事があればいつでも言ってくれ。俺はお前の、同僚だからさ」
「松尾……」
「あぁ、雨に濡れるなぁ、じゃあ俺はこれで。三人とも帰り気を付けて帰れよ」



松尾はそう言って走って行ってしまった。
あっという間の出来事に私達は固まってしまった。


とにかく、松尾はめちゃくちゃ良い奴だった。

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