炎の狂った愛を受け止めて。弐

ななじゅうはち＊ ページ28

食器を片付け、お風呂を入れ、沸くまでの間は少しの暇な時間である。
テレビを付けようと伸ばした手が後ろから引かれ、体ごと杏寿郎さんに倒れ込む。


顔を上げて杏寿郎さんの顔を覗き込む。





「きょ＿＿＿＿」






言いかけたところで、口を塞がれる。
流れるように、カーペットの上に寝かされ、ゆっくり口が解放される。




「…今週の休日はどこへ行こうか」
「え…？」
「昨夜は酷い事をしてしまった…だから…」




杏寿郎さんは優しく微笑んで私の髪を梳く。




「君の行きたい所に行こう」
「杏寿郎さん、私は行きたい所はとくに無いので、休日はゆっくりしましょう？」




杏寿郎さんが苦しむ姿は見たくない。
それに外出をする事は彼に相当な負担がかかる。
杏寿郎さんの精神が不安定になってまでも私は外出したいとは思わない。



「A…、本当にいいのか…？」
「はいっ、私は杏寿郎さんと過ごせるならそれでいいんです」




彼の瞳が大きく見開かれ、そして、安心したように私をまた抱きしめた。







「A」
「どうされました？」






杏寿郎さんは何も答えずに、私の首元に顔を寄せる。
くすぐったいが、かれこれ三十分以上この状態は辛い。お風呂が沸いた事を伝える音が鳴っても、一向に動こうとしない杏寿郎さん。

私が苦しくないように、乗りかからず、膝をついて抱きしめて、首元に顔を寄せている杏寿郎さんもそろそろ体勢がキツいのではないだろうか。





「杏寿郎さん」
「ん…？」
「お風呂、入りませんか？」
「あと、少し。＿＿＿＿＿＿我慢しているから待っていて欲しい」
「我慢、ですか…？」




聞き返すと、さらに抱き締める腕に力が入った。





「杏寿郎さん…？」



もう一度呼べば、ゆっくり顔を上げて、私を見つめてきた杏寿郎さん。
目が少し涙目で、それでもって頬、耳までもが真っ赤に染まっていた。その姿を見てドキッと胸が高鳴らずには居られなかった。





「……今夜は抱き潰されたくないだろう…？」





細められた瞳で言われて、私は色気に当てられながらも何度も首を縦に振った。




「ん、少し傷付くが…正直な君が好きだ」




あっ、と急いでフォローを試みるも、耳朶を舐められ始め、全ての思考回路が停止し、体も硬直した。
水音が鼓膜を刺激し、背中が震える。




「きょ」
「少し、だけだ」




杏寿郎さんの少しは、少しでは無い。
私はそんな事を考えながら、彼の背中に腕を回した。

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