炎の狂った愛を受け止めて。弐

ろくじゅうご＊ ページ15

「ん…」


ゆっくり目を開ける。
お腹が空いた。


「A、おはよう」
「おはようございます……杏寿郎さん」



杏寿郎さんは私を傍に引き寄せて、本を読んでいた。
私はボーッとする頭をゆっくりと回転させながら、起き上がろうとして固まる。
そして、起き上がるのをやめた。


「杏寿郎さん、あの、服…」
「あぁ、昨日はそう言えば風呂から上がって、着替えずにそのままだったな！」



あぁ！！と心の中で叫びたくなる。
こんなのとんでもない。

朝はもうそういう気持ちにもならないし、恥ずかしさがドッと溢れて、裸で下着を取りに歩く気力もない。
布団をキュッと握って、体を隠すように潜る。


でも、昨日の夜も大変盛り上がり過ぎて、夜ご飯を食べていない。
つまり、ものすごくお腹が空いている。


「杏寿郎さん」
「む？」
「お腹が空きました…」



今は午前四時。
いつもはこんな朝早くに朝食なんてとらないが。



「そうだな、まずは着替えようか！」


本を置いて、杏寿郎さんが、わざとなのか布団を捲ろうとするので、必死に抵抗する。



「わあああ！！まって、待ってください！！私、今ダメです！！」
「大丈夫だ！俺も君と同じだ！何も恥じることはない！」


そんなの鍛え上げて完璧な体の人はいいんです！！
激しい抵抗をする。布団を体に巻き付けて、簀巻きのようになる。



「Aの簀巻き…愛い！」


嬉しそうに笑う杏寿郎さんから顔を背ける。
いや、見ちゃダメだ！！
刺激が強すぎる！！



とにかくこのまま、クローゼットの引き出しから下着を取り出さないと。
簀巻き状態で何とかベッドからおりて、ちまちま歩きながらクローゼットを目指す。


杏寿郎さんは笑い過ぎて倒れている。



「愛いっ、ははっ、愛い！！A！！愛い！！」



早朝からとんでもない近所迷惑だよ、杏寿郎さん。





「ひゃっ！！」


もちろん簀巻き状態で歩くのは至難の業。
よく転ける。


その様子を見て、杏寿郎さんがまた愛い愛い言っている。



「っくぅ…」

またゆっくり起き上がって巻き直して歩く。
裸で歩くよりもよっぽどこちらの方がマシだ。





クローゼットにたどり着き、腕を出して、クローゼットの扉を開ける。


「よい……しょ」



棚を漁り、下着を取り出すと、いつの間に背後に居たのか、あっという間に奪われる。


「じゃあ、着替えをしような」
「え」



あっという間に布団を奪われ、着替えさせられた。

ろくじゅうろく→←ろくじゅうよん＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す