性別:女 ページ5
*
海。
砂浜、と呼べるほど綺麗じゃない都会の海。
そこだけが、私の癒しだった。
海面に反射して揺れる夕陽が目に痛いけれど、毎週水曜日のこの時間だけ私は私でいられた気がする。
『ん、こっちはやっぱりこうかな…』
相棒のアコースティックギターを抱えながら五線譜上の音符を何度も何度もかきかえる。
かきこんでは、またギターを抱え直す。
自分のためだけの曲、世に出ていかない、死んでしまうであろう曲と向き合うだけのこの時間が好きだった。
自分の隣にゼロ距離で腰を下ろす金色に気づかないくらいに、夢中だった。
「いい曲だね、誰の曲?」
一言目は無視だった。
目すらくれなかった。
「えぇ、可愛い女の子に無視されるなんて悲しいなぁ」
二言目も無視。
ただのナンパのつもりならお生憎様お断りだった。
少しの沈黙。
.
「綺麗な音だね。」
三言目で少し、顔を上げた。
聞き慣れていた言葉だったけれど、曲を褒められるのはやっぱり嬉しかった。
もう日が暮れていて、あたりは真っ暗だった。
それでもやっぱり金色はぴったり私の左隣にいて、ずっとここにいた事がわかった。
「でも少し、寂しそう」
そう続ける金色の目に私は映っていなかった。
海だけに注ぐ視線は、見かけによらず哀愁に包まれていて、なんだか見ていられなかった。
『あんたの方が寂しそうだよ』
気づけば言葉を紡いでいた。
距離感ガン無視のナンパヤロ〜に言葉なんてかけないって思っていたのに。
「あは、やっと口聞いてくれた。」
眉尻をさげ、心底嬉しそうな金色に、ばつが悪くなってまた視線を落とす。
『高校生が、こんな時間までこんな所にいたら親御さん心配するよ』
「ふふ、心配してくれてるの?でも俺の事、親は心配してないと思うなぁ、あと俺中学生ね」
君こそ○○中学の制服着てるし親御さん心配するでしょ?なんて言われたらもう返す言葉もない。
「…毎週水曜日、ここにいるでしょ。ずっと君の音聴いてたんだ。やっと話しかけられた」
『何しに、来てんの』
「水着の女の子いないかな〜って」
またあは、と明るく笑ってみせる。
嘘だ。
だってこんな汚い都会の海に遊びに来る女の子がいる訳がないから。
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ちより(プロフ) - 度々過去編のお話が入るのが凄いなって思いました…!!読みいるしすごく違和感のないお話に出会えたのは久しぶりです…!自分のペースで無理せず更新していってください、待ってます! (2020年1月5日 3時) (レス) id: 5d8f01d30c (このIDを非表示/違反報告)
Linon(プロフ) - 泉が可愛すぎてキュンキュンしますううう (2019年12月16日 1時) (レス) id: c9d9ceb5f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆゆちゃん | 作成日時:2019年11月28日 18時