性別:女 ページ13
*
「じゃあね」
『うん、また』
家の方面は正反対だからいつも駅でお別れ。
手をひとしきり振ったあと、改札を抜け、ホームへ歩き出す。
ぐい、と上着の裾を掴まれ、振り返ると彼がしたり顔で笑っていた。
危ない、って彼を睨みつけても笑ってかわされる。
彼いわく小さい私に睨まれても怖くない、らしい。
「ねえ、名前なんて言うの?」
答えはわかってるくせに。
『まだ教えてあげない』
帰り際、いつもの会話。
だって、教えたら彼が消えてしまいそうで。
教えないのはまた会う理由を作るため、だなんて変だろうか。
.
秋も深まって、海風も冷たくなってきた。
出会った時は夏服だったのが冬服になり、セーターを着て、今日はついにブレザーを着た。
とっくに日は落ちていて、作曲する手はとっくの昔に止まっている。
相棒のアコギを抱えて1人海を眺めていた。
『お、そ…』
いつも埋まっている左隣が今日は空席。
先週別れた時に今週は来れない、なんて言われていない。
普段ならとっくに喋り疲れて、海を眺めて、それで…
無意識に上げた左手が宙を搔く。
ほんの少し前まで誰もいないのが当たり前だったそこに見慣れた蜂蜜色が見当たらないことが、今は無性に寂しかった。
ふとまた海の方を見るとそっと何者かに後ろから目が覆われる。
視界が閉ざされた中で、降ってくるのは聞きなれた優しい声だった。
「俺がいなくて寂しかった?」
『…あ、』
いつも着崩した制服は、上までネクタイをしめている。
すとん、と腰をおろすのは紛れもない彼そのものだった。
「ごめんね、待った?」
『べ、つに約束もしてないし』
「あは、そうだね」
口を開かない。
いつもなら心地いい沈黙が、今日に限っては居心地が悪かった。
こんな時、友達がたくさんいる彼ならどんな言葉をかける?
沈黙を先に破ったのは彼だった。
「ねぇ」
『なに…?』
「手、握ってもいいかな」
声が震えていた。
女の子の手を握るくらいで緊張するような彼ではない。
ただならぬ気配を感じ取って、彼の顔が見れなかった。
『…いいよ』
「ん、ありがと…」
砂浜に投げ出した私の手に覆い被さる大きな手は氷のように冷たかった。
温めてあげたくて、握り返したらふるりと肩が震えたのが分かった。
「今日ね、七回忌なんだ」
*
183人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちより(プロフ) - 度々過去編のお話が入るのが凄いなって思いました…!!読みいるしすごく違和感のないお話に出会えたのは久しぶりです…!自分のペースで無理せず更新していってください、待ってます! (2020年1月5日 3時) (レス) id: 5d8f01d30c (このIDを非表示/違反報告)
Linon(プロフ) - 泉が可愛すぎてキュンキュンしますううう (2019年12月16日 1時) (レス) id: c9d9ceb5f4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆゆちゃん | 作成日時:2019年11月28日 18時