噛みついて、奪って、そのまま蕩けて。【弐】

肆拾弐 ページ5

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わたしが好き、と言った瞬間急に彼が黙ったので、不安になる。

それもそうか。わたしみたいな女に好かれて嬉しい男性なんているわけが無い。
おそるおそる彼の様子を伺うように後ろを向こうとすると、彼の大きな手のひらで視界を塞がれた。

｢…？志麻にいさん？｣

｢……っ、ちょっと今こっち見んとって。｣

よく分からないが、とりあえず言うことを聞こう。
そう思って前だけを見ていると、僅かに聞こえた彼の独り言。


｢っはぁ……不意打ちはあかんて…Aかわいすぎやろ………｣


…………いや、きっと気のせいだ。
センラさんも志麻にいさんも、ただ気を使っているだけで、社交辞令的にそう言ってるだけで、もっと言えばわたしの都合のいい聞き間違いだ。






『──家の娘の──さんですら、【特異者】として生まれたのに、何故あなたは何も持っていないの？何故妾がこんなに辛い思いをして産んだのに【非異】なの？何故妾が【非異】の親として嗤われなければならないの？ねえ、何故？』






わたしが【非異】だと分かって、間もない頃にお母様に言われた言葉だ。
もう今になっては、比較対象として言われた名家のお嬢様の名前も、何がきっかけでこの言葉を言われたのかも、覚えていない。


ただ、漠然と、怒りと憎悪を含んだその言葉を吐きかけられたのは、覚えている。

せめて、志麻にいさんや、センラさん、うらたさんやさかたさんのように強力な【特異】で無くて良いから、【特異者】でありたかった。


(やっぱり、こんな無能が彼らの傍で生きるなんて、無理なのね)


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