伍拾玖 ページ23
.千羅
無駄に広い実家の、無駄に広い自室の布団の上で正座し、精神統一を図る。
深呼吸を繰り返し、仮に術が不発してもせいぜい自身の術力が枯渇するくらいに留められるよう、制御の術をあらかじめ部屋中にかけておいた。
そして手のひら大の水晶を出現させ、精神を無にする。
「───────祈理術」
ぽつり、とそう術名を口に出すと、途端にぐにゃりと透明なはずの水晶の表面が歪み、濁る。
暫くするとぼんやりとしながらもここではないどこかが映し出され、瞬間あらん限りの声で叫んだ。
「なんっっっっでうらたんとさかたがAと
あまりにも唐突なその叫び声に、恐らく自分の部屋の前を通った
そんな事よりも、だ。
「はー??ほんまありえんわ何なん?浮気?てか2人ともAとなんか近ない?触んなほんま」
そう、今最重要すべき問題は件の水晶───に映った我が愛しの婚約者候補、Aとその周りをうろちょろ飛び回る
先程までの凛々しさの欠片もない当主の姿に、心配そうに様子を伺う女佣達には申し訳ないが、正直に本音を言おう。
俺だってAとデートがしたい─────とッ!
「……………はぁ、」
羨ましさと嫉妬が混ざって、細い息を吐く。
今までの婚約者の女の子たちには、こんな感情を抱いたことが無かったのに。
かわいくても、相当な家のお金持ちでも、愛想が良くても、特に関心も執着も湧いてこなかった。
それほどまでに、自分は彼女のことを好きに───否、愛しいと思っているのだろう。
「…やっぱ、好き、やなぁ………」
まるで恋する乙女みたいな切ない声が自分の喉から出て、そのまま空中に溶けていった。
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影月希望(プロフ) - 長男さん» 作品にメールアドレスを登録していた場合。アカウントのパスワードが発行されると思うのでそれを打ち込めば再ログインできると思います。あと、とても素敵な作品です。続きを楽しみにお待ちしております。 (2023年3月7日 13時) (レス) @page27 id: 2a5085a77b (このIDを非表示/違反報告)
長男 - ちょこさん» 戻りたいんですがいかんせん機種変したせいでログインできなくなってしまって…т т (2023年3月3日 19時) (レス) id: f346af2ee0 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 終わってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2022年5月10日 12時) (レス) @page27 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
長男(プロフ) - そうです無事高校生になりました村人Aです…まじで申し訳ないです… (2022年4月25日 23時) (レス) id: f346af2ee0 (このIDを非表示/違反報告)
雨の夜 - 長男さん» えっ!!?村人Aさんなんですか!? (2022年2月23日 17時) (レス) @page27 id: 1e59db50fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:村人A | 作成日時:2021年1月13日 21時