第6話 ページ9
「……宇髄のヤツやらかしたなァ」
呆れ顔で言うのは不死川。今世では数学教師をしている。親バカ第一号。
Aが見つかった時には男泣きして今日は飲みまくろうと提案したのはこの男。普段はセーブして介抱側に回る不死川が飲みまくって泥酔した時には世界の終わりかと涙を流したことは記憶に新しい。怖い顔しといて温情に厚く、兄気質である。
「Aを追いかけ回してるのを知ったんだろう馬鹿みたいに毎日追いかけ回してるからな」
もはや宇髄と時透の追いかけっこは日常風景である。外国でもなかなか居ないようなでっかい図体の男に小柄で華奢な女子生徒が追いかけられている光景は、なかなかどうして犯罪味がある。こちらもまた呆れたようにはぁ、とため息をつくのは化学教師の伊黒だ。今世では甘露寺とも想いを通わせ交際している。一番どうでも良さそうな顔をしといてAが見つからない時は一番血なまこになって探し、今は嫌々そうにしながらも宇髄の相談相手にもなっている伊黒は柱メンツの中で一番の親バカかもしれない。
「……でも、本当に良かった」
そうにこにこして言うのは生物学を教えている胡蝶カナエだ。上弦の弐と交戦し引退せざるを得ない怪我を負ったものの、後にお館様の護衛や蝶屋敷での治療などに専念し貢献した。Aや無一郎とはあまね様の護衛としてついて行ったことで知り合ったらしく、入隊後自己管理が出来ないAの世話を焼いたりと意外にも前世では接点が多かった。
カナヲに重ねて心を痛めることもあったが刀鍛冶での交戦後、驚く程に自我が芽生え自分のことのように泣いて喜んだ。しのぶには呆れられたけど。生意気すぎるくらいに宇髄と口論しているのを見た時には年相応の表情を見れて安堵したものだ。
子どもなんて致命傷でない程度の怪我をたくさんして、友達とたくさん笑って、自分が興味あるものをたくさん学んで、好きな物をたくさん食べて。時には喧嘩して、腹を割って話して。そうやって鬼が存在したせいで出来なかったことをたくさん経験して、大人に守られて、のびのびと大人になっていくべきなのだ。無理やり背伸びして枷をはめたような大人にならないで欲しい。
今は平和なんだから鬼が居て眠ることが出来なかった夜にたくさん寝て、前世は酷かった目の下のクマなんて縁のなかったものにして、身長を伸ばして。そうして幸せになって欲しい。そのためなら記憶なんて無くていいと思ってしまう。
(子どもの幸せを願う大人)
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作者名：すぴか。 | 作成日時：2023年1月10日 10時
