ご ページ6
静かに、と碧が短く告げると慌てて口を両手で塞いだエレシュキガルも耳を澄ませた。
ざわざわと波の音だけだったが、少しずつ何かが近付いてくるような気配がある。
それは。
「!」
目の前から飛び出してきたものは人工的な何か。
大量の水しぶきを上げて海上にあがるそれは、魚雷だ。
目をこれでもかと見開いたエレシュキガルに、目を輝かせた征服王、そしてきょとんとした表情の碧。
そんな三人を余所に勢いよく上がった魚雷は宙を舞い、そして落ちてくる。
落下先は不幸にも神威の車輪の上。
迎え撃とうと腰に携えた剣を抜いたイスカンダルに慌てる女神。
碧はというと、冷静に強化魔術を用いて戦車の床を蹴った。
ただでさえ強化魔術をせずとも人外的な身体能力を有する碧なのだが、強化魔術を使うことによって更に人外さに磨きが掛かる。
跳躍した拍子に戦車が大きく揺れたためエレシュキガルは尻餅をついてしまった。
「きゃっ……」
「おうおう、碧の奴、随分高くまで蹴り上げおったな」
打ってしまった部分に顔を顰めるも、跳んだ碧を見上げれば上空で何かをしたらしい。
腕を振るったあとにあろうことか魚雷を蹴り上げて更に高く高く、それこそ成層圏以上まで追いやった碧は重力に従って戦車の上に落ちてきた。
かと思えば眉尻を下げてエレシュキガルに手を差し伸べる。
「エレちゃんごめん、痛かった?」
「そ、それは大丈夫なのだわ。心配無用です。というより碧、今何をしたのかしら? 何かしたようだけど、早過ぎて見えなかったのだわ」
「あぁ、危ないから起爆部分を少し切ったんだよ」
碧の獲物である飛梅を使って魚雷の起爆部分を断ち切ったのだ。
最早人間業を超えていることを彼は果たして理解しているのだろうか。
いいや、していないだろう。
差し出された碧の手を掴もうとしたところ、また水面からひょっこりと何かが出てきたことにエレシュキガルは気付いた。
それは、何か配管にレンズが付いたような形状。
「これ、何かしら?」
指差し、碧とイスカンダルに振り返って問う。
小首を傾げる二人にもう一度エレシュキガルはそのレンズを見ようとして、再び向くがそこにはもう海面しかない。
「? なんだったのかしら?」
と、エレシュキガルが疑問を口にした瞬間背後から再び水飛沫を上げて何かが現れた。
今度はいったいなんなのか。
というより、この短い時間に三回も同じような状況に遭遇するこの三人はいったいなんなのか。
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