いち ページ2
そんなこんなで翌朝。
「……まぁた飲み潰れてやんの」
朝食の仕込みのために朝早く食堂へ訪れた樹は呆れていた。
人間として終了している大人が飲み潰れて床で雑魚寝している。
「って、あれ? 兄貴は?」
床に倒れている撃沈三銃士の内、変態紳士が一人と隠キャ眼鏡が一人、それぞれ泥酔中。
ただ一人、人外が足りない。
キョロキョロと周囲を見渡しても樹の兄の姿はどこにもいなかった。
「まぁ兄貴だし、また勝手に一人でレイシフトしてんだろうな」
そう呟いた樹は床にいる二人をスパルタ式おはよう方式で起こしていた。
そして樹が呟いた独り言は限りなく正解だった。
ただ一点、“一人”という点を除いては。
「んぅ……」
悩ましげな声を上げるのは眠りに就いている一柱の女神。
シュメール文明にて冥界の女神であるエレシュキガルであった。
昨晩は一人ベッドに入りすよすよと就寝したのだが、なぜか今は少し寝苦しい。
ついでにいえば右側がやや暖かい。
加えて潮の香りと波の音が──。
「……」
微睡むエレシュキガルの思考の中で疑問が生じる。
依代の少女に引っ張られてか寝起きは良くはないのだが、それでも異常事態であるのなら動かなければならない。
ゆっくりと目を開けば綺麗な青空と想い人の顔が。
「エレちゃん、おはよう」
優しく微笑む彼にエレシュキガルは固まった。
心の準備をしていない時、しかも寝起きにその笑顔はダイレクトに女神の心臓をえぐる。
顔を真っ赤になったエレシュキガルに、碧は眉尻を下げた。
「顔が赤い。もしかしてエレちゃん体調悪いの?」
「だ、だだだ大丈夫なのだわ!」
熱を測ろうと顔を近付けてくる碧に咄嗟にエレシュキガルはすくりと立ち上がって物理的に距離を取る。
ーーこ、これ以上は供給過多で心臓が持たないだわッ……!
胸に手を当てて高鳴る鼓動を少しでも落ち着かせようと深呼吸をして気付く。
鼻腔をくすぐる香りは潮のもの。
はっとして周囲を見渡せば燦々と降り注ぐ太陽と、紺碧色の地平線。
あと。
「お? 目が覚められたか女神よ!」
「……」
ラフな格好で釣竿片手に少しニヤついた表情でこちらを見る大男が一人、いた。
思わず無言になってしまう女神。
思い出されるは数分前の出来事である。
「(み、見られてたーー!!!!)」
膝から崩れ落ちなかったのは女神としての矜持ゆえか。
──そうである、橘碧は征服王イスカンダルと女神エレシュキガルを連れてレイシフトしていた。
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