貴方の腕の温もりが

温もり ここのそじ あまり ふたつ ページ42

＊




同日同時刻、病室にて




部屋には 一定のリズムで電子音が刻まれる。




ベッドの上には横たわる少年の姿が。









「正直、ここまで進行が早いとは・・・」




「そんなっ、じゃあ翼は・・・！」




「・・・もう、持って⎯⎯⎯ 」









手術は成功したにも関わらず、病室の空気は重たい。




担当の医師と少年の母親の会話が続く。









「・・・どうして、あの子が」




「もう、我々にも手がありません」









「・・・手術をした事は、正しい事でしたか？」




「この手術をしなければ、もっと短くなっていたでしょう」









医師は、少年の母親に深く頭を下げた。









「お母さんの決断は、勇気ある事でした」









「例え僅かな時間だとしても 彼の命は救われました」









静かな病室に 少年の母親の泣き声が響く。




この時、少年の母親の頭の中にはひとりの少女の姿が浮かんだ。




少年が愛した少女の事だ。




少女に伝えるか、伝えないか。




少女にこの事実を受け止めきる事が出来るのか。









少女が、壊れてしまわないか。









「・・・彩ちゃんに、伝えるべきでしょうか」









少年の母親は 医師に問う。




医師は少し悩んだ後、静かに頷いた。









「やはり、伝えるべきだと思います」









「残された時間を大切に使うためにも」









少年に残された時間はあと僅か。




残される者はどのように過ごすべきか。




残していく者は何が出来るか。




運命(さだめ)に抗えない人間は、何を思うのか。









　









「覚悟を、決めておくためにも」









　









愛する者を失う哀しみは計り知れない。




また、愛する者を残していく哀しみも計り知れない。




少女は泣き叫び、少年は悔やむ。




どうして彼が。




どうして俺が。




離れたくない。




離したくない。




失いたくない。




残したくない。









一緒に、生きていきたい。









まだ子供の彼らに降りかかる災難。




少年は未来を失い、少女は一生の傷を抱える。




彼らを救えなかった大人達も後悔する。




治療薬が生まれていたなら。




治療法が見つかっていたなら。




不治の病じゃなければ。









いくら後悔したとて 未来は変えられない。




未来を変える事なんて、出来ないのだ。

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