温もり やそじ あまり ふたつ ページ32
*
「言ってくれなきゃ、分からない」
私はゆっくりと翼に向き直る。
翼は目線だけこっちに向けて私を見つめた。
「言葉にしないと伝わらないって、私も最近知ったんだ」
いつか奈子が言っていたんだ。
『お姉ちゃん、今なに考えてる?』
『知らない』
『ねぇ、お姉ちゃん怒ってるの?』
『知らない』
『お姉ちゃん!』
『・・・知らない』
『・・・お姉ちゃん、言ってくれなきゃ分かんないよ』
『奈子はお姉ちゃんじゃないから、分かんないよ』
「私は翼じゃないから、翼の事が分からない」
私は強く拳を握って翼を見つめる。
どうか、伝わって。
「翼の痛みも苦しみも、辛さも。何一つ分からない」
私達は、まだ間に合うから。
まだ変えられるから。
「そんな私でも、一つだけ分かる事があるよ」
私達は生きてるんだから。
「私は翼が大好きだって事」
何回でもやり直せるんだ。
翼は黙って私の話を聞いていた。
目をそらす事もせず、真剣に。
伝わったかは分からないけれど、言いたい事は全て言えた。
私はそれっきり口を閉じて翼を見つめる。
「・・・俺には、彩を幸せにする事はできない」
そんな事、ない。
私は今まで幸せだったよ。
「この先ずっとは一緒にいられない」
分かってる。
それでも私は翼がいい。
「・・・けど」
翼が僅かに微笑んだ。
「彩を、誰よりも愛してる自信はあるかな」
ポタリと、涙が一筋流れ落ちる。
「・・・バカ」
そっと翼の手をとり、キュッと握った。
「しょうがないから 彩のワガママ、聞いてあげる」
翼が優しく微笑み、私を見つめる。
私が握っていない方の手で涙を拭ってくれる。
「もう、こうなったら死ぬまで離れてあげない」
そう言って、翼は私の手を強く握り返した。
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にゃ〜 - アーヤと、翼のお母さんが、最後の最後まで翼を信じるところが感動しました! (1月8日 21時) (レス) @page50 id: 26a4d90e30 (このIDを非表示/違反報告)
みみー - 泣いちゃいました!読み終わった後なんかもうぼろくそに泣きました!作者様様へ、感動する話をありがとうです! (2021年3月24日 11時) (レス) id: 76382fa356 (このIDを非表示/違反報告)
ピュア - 感動しました! 色々なところで、泣きました (2021年1月5日 20時) (レス) id: 75738b8618 (このIDを非表示/違反報告)
yukko08(プロフ) - 翼が彩に抱きしめてと言ったところで泣きました 作者様に感謝です! (2020年5月4日 19時) (レス) id: 85514eea1d (このIDを非表示/違反報告)
K - リクエストを書いてもらえて嬉しいです。ありがとうございます。 (2019年9月6日 6時) (レス) id: 70bbe6910f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:smile | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Niko-hp/
作成日時:2018年3月22日 15時