温もり ななそじ あまり ここのつ ページ29
*
必死に足を動かしながら、思い出す。
翼が私に本心を話してくれた回数を。
いつ? 何回? どんな表情で?
思い出そうとすればするほど実感した。
「・・・病気がバレる前、ほとんど、言ってないっ」
息が切れて苦しいけれど、そんなのどうでもいい。
自分がどれだけ翼にとって頼りなかったか。
どれだけ、頼れない相手だったか。
「・・・はぁっ、はぁ」
私はいつも翼に助けられてばかりで。
いつも翼に頼りきってばかりで。
「・・・っ、はぁ」
どれだけ、翼に甘えていたんだろう。
病院の中に入り、病棟の非常階段をかけ上がる。
エレベーターなんて待っていられない。
はやく、はやく、はやく。
「たす、くっ・・・」
のんびりしている時間はないんだ。
時間で解決なんてできないんだ。
翼には、時間がないんだから。
非常階段の重いドアを開け、廊下に飛び出した。
そこで誰かとぶつかりそうになる。
「わっ・・・!」
「おぉ・・・」
寸前でブレーキをかけ、謝ろうと顔をあげた。
「す、すみませ・・・」
「・・・アーヤ?」
見上げた先にあった顔は、よく知っている人物のもので。
謝罪の言葉よりも驚きの方が勝ってしまっていた。
「く、黒木君、なんで・・・」
誰も、この場所なんて知らないはずなのに。
いるはずないのに。
どうして、ここに。
「俺は知り合いの見舞い。アーヤは?」
なんだ、知り合いのお見舞いか。
少しホッとしたけれど、まだ安心はできない。
と、いうか。
「え、と。私は、家族のお見舞い、だよ」
・・・言えるはずがない。
翼のお見舞い、だなんて、口が裂けても言えない。
私の歯切れの悪い返事に首を傾げつつも黒木君は頷いた。
「・・・へぇ、そうなんだ」
どこか意味深な響きを含む声に、今度は私が首を傾げた。
「美門とはもう家族なんだ」
・・・え?
一瞬、黒木君の言葉の意味が理解できずに固まる。
その後、すぐに別の意味で固まった。
「ど、して・・・」
私はただ、呆然と黒木君を見る事しかできない。
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にゃ〜 - アーヤと、翼のお母さんが、最後の最後まで翼を信じるところが感動しました! (1月8日 21時) (レス) @page50 id: 26a4d90e30 (このIDを非表示/違反報告)
みみー - 泣いちゃいました!読み終わった後なんかもうぼろくそに泣きました!作者様様へ、感動する話をありがとうです! (2021年3月24日 11時) (レス) id: 76382fa356 (このIDを非表示/違反報告)
ピュア - 感動しました! 色々なところで、泣きました (2021年1月5日 20時) (レス) id: 75738b8618 (このIDを非表示/違反報告)
yukko08(プロフ) - 翼が彩に抱きしめてと言ったところで泣きました 作者様に感謝です! (2020年5月4日 19時) (レス) id: 85514eea1d (このIDを非表示/違反報告)
K - リクエストを書いてもらえて嬉しいです。ありがとうございます。 (2019年9月6日 6時) (レス) id: 70bbe6910f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:smile | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Niko-hp/
作成日時:2018年3月22日 15時