坂口安吾 ページ27
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「如何したんですか」
ポートマフィアが資金洗浄をするための会計施設。
退屈を体現したようなこの部屋を訪ねるものは殆どいない。
そんなところを、いろいろあって中原中也準幹部の補佐の補佐というわかったようなわからないような役職についていた安部Aが訪ねていったのは、この部屋の主、坂口安吾失踪の二か月前だった。
Aが補佐している幹部補佐(とは)が北への出張から帰ってきた折、謎のマネーを引き連れて来たので、この部屋の真の使い道である資金洗浄にやって来たわけである。
だが、元一般人である安部Aにそのやり方がわかるはずもなく。
部屋の中をうろちょろしていたところで、冒頭、坂口が声をかけるに至ったのである。
「あの、資金洗浄とやらの遣り方がよく判らなくて……」
むしろわかりたくもない、というような顔を隠そうともせずにAが言う。
坂口は、噂の新入りか、と一人納得してから、大金が入っているのだろうアタッシュケースを指差した。
「そのくらいなら僕が遣っておきましょうか。丁度今手が空いているので」
「あー……いや」
Aは否定の意を示す。
あっさり手渡して貰えるものだと思っていた坂口は、少し驚いて茶を飲む手を止めた。
「このお金の持ち主に、他の奴に指一本でも触れさせたらぶっ飛ばすって、言われたん、ですよねえ……」
坂口はぎょっとなったが、Aは半年弱の付き合いの中で、その言葉が、自分でできるように学んで来い、ということなのだと理解していた。
Aとしては真っ平御免であったが、上司に逆らえるはずもない。
その後、坂口に一連の流れを教えてもらい、頭に叩き込んでから、礼を言って部屋を出た。
心の中でふざけんなと上司に悪態をつきながら、背中に圧し掛かる罪の重さを、また実感するのであった。
(((一刻も早く辞めたい)))
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作者名:のーと。 | 作成日時:2018年10月1日 22時