異動 ページ28
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その夜、石川淳がバー・ルパンを訪れると、太宰治がにっこり笑って出迎えた。
「やァ、
そこには既に、坂口安吾、織田作之助も揃っていた。
軽く応えてから、織田作之助の隣に座る。
「今日はリンゴジュースがいいです」
そう云えば、バーテンダーは無言でグラスを目の前に置く。
「君、異動になったんだって?」
単刀直入に聞いてきた太宰に石川は苦笑で返した。
「相変わらず情報が早いな」
織田も興味を示したように問う。
「どこに移るんだ」
それに、石川はにこ、と笑った。
「琲世ちゃんのところです」
太宰が驚いたように声を上げる。
「何それ、聞いてない!あの子、独立するの」
「ぼくも一寸判らないんだよね。補佐をしてもらうよ、としか首領には云われなかったし」
すると、坂口が思い出したように声を漏らした。
「そういえば今日、その安部君が僕の処に来ましたよ」
「資金洗浄?遣ってあげたの?」
石川が反対側へ視線をやって聞く。
「否、心底遣りたくないというような顔をしてましたが、上司の脅しにあったようで」
「嗚呼、あの人か。何処かの蛞蝓に似て脳筋だからね。マスター、蟹缶おかわり」
何処かの、を強調して云った太宰の前には、既に空になった缶が四つ転がっていた。
しかし、何ですかね、と坂口は零す。
「マフィアらしくありませんでしたね」
「ジャンルとしては織田作と同じさ。人を殺さないマフィア」
すると、石川が手を止めた。
「あの子、まだ人を殺してないの?」
その反応に、太宰は一瞬目を細めたが、直ぐにいつも通りに答える。
「あァ、何度か任務には出てるみたいだけど、そう聞いてるよ」
石川は太宰の視線に気づいたのか、誤魔化すように口を開いた。
「そんな子の処に行くのか。大変になりそう」
善い意味で空気を読まなかった織田が呟く。
「俺と同じ、か。一目見てみたいな」
「中々面白いよ。異能の適応が速くてね、芥川君と本気で戦える迄になった」
「治くん、毎度云うけど、あれは戦えるって云わない。結局琲世ちゃんが殺されそうになってぼくが止めに入るんじゃないか」
「あの動きで十分も持てば上々だよ」
全く悪びれない太宰に石川が溜息を吐いて、立ち上がった。
「じゃあ、ぼくはこれで。尾崎さんに呼ばれてるんだ」
ポートマフィア__尾崎幹部参謀員・石川淳
異能力___「おまへの敵はおまへだ」
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作者名:のーと。 | 作成日時:2018年10月1日 22時