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まふは何も言わずに彼女からそっと離れていったが、Aのこの言葉を最後に、二人の周りを静寂が包み込んだ。
まふも伊達に何年もAの幼馴染をやってきていた訳では無いし、恋愛対象として彼女のことを見てきた訳でも無い。
だからこそ、彼女が何を思ったのか、彼には手に取るようにわかってしまった。
大勢からもてはやされたって嬉しくないし、Aからモテればそれでいい、という思いが燻ぶる。
僕は…もう十分待った、Aがどんな形でも僕の前で「愛して」と口にするその瞬間を。
十数年間Aだけを想い続けてきたから、耳にしたら直ぐにでも「僕はずっと愛してるよ」っていうつもりだった。
「まふ…？どうかしたの？」
まふは、そんなことを考えていたが、当のAはつゆ知らず。
不安そうにまふの肩を軽くゆすり、目にかかっている白髪をそっとかき分けて視界を遮るものをなくすと、心配そうに彼の整った顔をじっと見つめる。
まふのその緋色の瞳には、彼女のダークチョコレートの如き、両の瞳いっぱいに自身の姿が投影されているのが映った。
彼女の視界の中に自分しかいない＿＿この事実はまふをさらに暴走させるのに最大限の効力を生むこととなった。
「ねぇ」
普段は優しい瞳で見つめるようにしていたまふも今回ばかりは、語気を強めていつもより低い声でAに話しかける。
「A、寝言で何て言ったか覚えてる…？“愛して”って言ったんだよ。相手が誰でもいいならさ、僕でもいいよね？僕なしでは生きていられない程にぐずぐずに愛してあげる。その誓いとして、A以外とはしたくないキスするから、嫌だったら抵抗してね」
「愛してあげる」
彼の口からはっきりと紡がれたこの言葉は、天涯孤独のAにどれほどの衝撃を与えただろう。
このキスを受け入れれば、今までの関係ではいられなくなる、頭では理解していた。
拒めるわけなんて、ない………私のこと、まふには何でもお見通しだ。
「男の人は、好きでも無い女性を本当に愛してるように抱ける」っていうけれど、まふにとって一時の迷いでもいいから愛されたい、この腕に抱かれたい。
彼の顔がゆっくりと近づいてくる。
1種の欲の様なものを携えているような彼の朱眼を見つめるのを止め、委ねるが如く目を瞑った。
まふのそれがAの唇と重なる。
息継ぎを何度もしながら徐々に深くなっていくそのキスを受け入れ続けた。
これは、まふによる甘美な罠に堕ちる前兆に過ぎない。
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奏斗(プロフ) - ちづさん» ありがとうございます。なかなかすぐに更新できる、ということが少ないかもしれませんが、これからもご愛読のほどどうぞ宜しくお願い致します。 (2020年4月11日 23時) (
レス) id: 18d51c2305 (このIDを非表示/違反報告)
ちづ - すごい好きです！数話しかないのに分かる、神々しい神作オーラ・・・！ (2020年4月9日 16時) (レス) id: ba7673d727 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：奏斗 | 作成日時：2020年4月9日 0時
