【刀剣乱舞】さあ、驚いてくれ。 (ページ5)

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　審神者、という職業は全く聞いたことがなかった。今思えば、それも当たり前の話だ。後に今から何百年か経った頃に出来る職業で、過去とか別次元とかファンタジーな説明を聞かされることになるのだが、この時の私は知る由もないのだから。

　とりあえず。当時将来の夢も行きたい進路も持っていない私にとって、思わぬ幸運だったのは確かだった。

　今進路が決まってしまえば学校なんかもう通わなくていいんじゃないか。そんな安直な考えで、渡された書類にインクを走らせる。

　書類に目を通しながら話を聞けないのに、話はそのままだらだらと続いた。普段はしっかり発言をする彼らなのに、その時はどこか角の崩れた、まるで媚びている声に聞こえた。

　私に期待して、意見が変わらないよう顔色を窺う様は、滑稽で情けない＿将来の夢はないものの＿なりたくはない姿だった。

　終いには私が選ばれた理由まで聞かされそうになったが、ただただこの空間にうんざりしていた私は、作業を終えるとすぐに部屋を飛び出た。

「また、あとで」

　聞こえたそれに振り返れば、紹介されない、ただ私たちの話を聞いていただけの男性と目が合った。彼こそ私の本丸を担当することになる人なのだが＿＿そんなことを露程も知らない私は目をそらして走った。

面倒な媚びへつらう、汚い大人の声から早く解放されたかった。

「でもあの時……」

　もし`今`。時間遡行してあの時に戻れたなら。私は＿＿

　いつか書いた年に一度の短冊の言葉を思い出そうとして、しかし首を横に振った。

「それじゃあ、まるで後悔しているみたいじゃない」

　悔いもない。自分に対しての後ろめたさもない。だって。

　この気持ちは、彼らに出会えていなかったら持ってすらないものだから。