崖 ページ3
翌朝朝食を終えた一行は早速旅館を出て、温泉街の近くの山道を歩いていた。
整備されていて歩きやすい道だが時折大きな石が転がっていて、気をつけないと足を取られそうになる。
「近隣の人々に聞き込みをしてもダメなら、実際にAに景色を見せるほかないな」
先頭を歩く司のスマホからは、Aのホログラムが出てきている。
『任せて！ 似てる景色があったら、すぐに言うよ』
かなり張り切っている様子で周りを見渡し、木々の間から見える風景をチェックする。
「……この辺って、あんまり観光地として有名なわけじゃないよね」
寧々の言葉通り、この地域を訪れる観光客は少ないようだ。朝早くということも手伝ってすれ違う人もいない。
少し開けた場所に出ると、Aが声を上げた。
『――あれ、向こうの崖……』
指さす方向に視線を向けると、切り立った崖が見えた。高さはそれほどないが、幅は広く、奥に続いている。
「崖……が、どうかしたの？ 特に変わったとことかはないと思うけど」
聞き返すえむに、Aはなんとも言えない顔をして答えた。
『全然見たことない景色なのに、何かありそうな気がして』
「ふむ……少し遠回りにはなりそうだけど、そこの道を通っていこう」
類に従って、司達はその崖へと続く細い道を進んだ。
舗装されたコンクリートの道が途切れ、砂利が敷き詰められた土の地面になる。少し進むと、崖の先端が見えてきた。
「わ、綺麗……」
えむが小さく漏らす。
目の前に広がる光景に、司達も――ホログラム越しに見ているAでさえ、思わず感嘆した。
辺り一面に広がる緑。澄み渡る青空の下、温泉街の町並みが一望できる絶景が広がっていた。
「って、見とれてる場合じゃないでしょ。A、何かありそう？」
寧々に言われ、Aはハッとしたように我に返る。
『そっか、探さないと……！ 司くん、よろしくお願いします』
司のスマホ上でぺこりと頭を下げてから、再び周囲の様子を見渡した。
「ああ、ではまずはあっちの方からだ！ いくぞA！！」
『いえっさー！』
「あっ、ずるいよ二人ともー！ あたしもあたしもー☆」
スマホを掲げながら意気揚々と走り出した司の後を追って、えむも駆けていく。
「はぁ……ほんとあいつらは」
呆れ顔で溜息をつく寧々の隣で、類は「いいじゃないか、僕達も行こう」と楽しげに微笑んだ。
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作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
