【ヒプノシスマイク】大人びた幼馴染 2nd Album

♪ ページ47

「……なに言ってんの」

「別に？ 変なことは言ってないでしょ。相変わらず、幼馴染の彼にも壁作ってんだねって思ってさ」

「だから前にも言ったけど壁なんてっ……」

「あるよ」


嫌に芯のある声。まるで確信があるような、断言できるような、確固たる何かを持っていると言わんばかりの、そんな声。
昔からそうだ。ソプラノの声のくせにどこか落ち着いていて、確信を突いてくる声、視線。楽しそうに、嘲笑うかのように笑う瞳は真っ直ぐ私を捉えている。


「無自覚なんだろうね、本当に。あんたさ、誰に対しても一歩退いてるんだよ。遠慮してる、とは違うかな。信じてないって言い方が正しいかも」

「は……？」


一歩退いてる？ 信じてない？ なにそれ、そんなわけない。だって私は一郎達のことが本当に大好きで、信頼してて、壁なんて作ってなくて、それで……。

過去に似たようなことをこいつに言われた。その時は「くだらない」の一言で一蹴したのに、なぜだか今はそれができない。私が一郎達を信じてないなんて、そんなことあるはずないのに。


「……あんたもしかして、自分以外の人間のコト信用信頼できないんじゃない？」

「そんなわけっ」

「ないってことは無いと思うよ？ 気づいてないだけでさ。確かに今だって声に強張りはあるけど図星を突かれてって感じのやつじゃないし、顔色だって変わってない。ってことは無自覚、無意識。身体に染み付いちゃってるわけだ。人を信じちゃいけないって」


人を信じちゃいけない、信じるのが怖い。いつかの私が声にならない悲鳴を噛み殺し、独りなのだと自覚した時の光景が蘇る。


「……ああ、その顔。心当たりあるって感じだね」


頬杖をついて見上げるような視線を私に向けるそいつは、今はにこりともしていない。
心当たりは確かにあった。あるけど、あるけれど。私は生まれ変わったことで自分を変えるきっかけを得て、自分を変えてきたつもりだ。
だからこそ幼馴染というかけがえのない存在ができて、他のディビジョンにだって知り合いがいる。……まあ多分、知り合い以上友達未満な感じはするけど。

変わろうと思って動いて、声を出して、言葉にして、変えてきたはずなのに。
結局、結局私は、あの時から何も変わってないってことなのだろうか。あの日一郎が手を伸ばしてくれて、かけてくれた言葉があったのにも関わらず、心のどこかで、自分は独りなのだと思っていたということなのか。そんな、こと。

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