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竹谷 八左ヱ門side



生物委員会で飼っている2匹の犬は、普段は山に住んでいて、たまに下りてくる。
非常に人懐っこい。
赤子の頃から育てているおかげだろう。

とはいっても、獣には違いない。
扱いを間違えないよう、委員会の時間を使って改めて下級生たちに伝えていた。
そんな時だった。



穏やかだった2匹がピンと耳を立てたと思えば、牙を剥き出す。
咄嗟に下級生を庇えば、2匹が鋭い敵意を向けたのは俺たちではなく。



「………」



天女は、困ったような笑みを浮かべた。


その雰囲気から恐怖や緊張は、微塵も感じられなかった。
あんな化け物と戦うくらいだ、動物の威嚇など意に介さないのか。

ただ、少しばかり表情が……いや、今はどうでもいいか。



「……てん、」



言葉にしかけて止まる。
“天女”と呼ばないよう、学園長先生に言われていたんだった。
ーー代わりの名前が思い当たらない。



「……何かご用ですか」



結局簡潔に尋ねた。



「書類を届けに来ました」



天女ーー頭の中でくらい良いだろう。

天女はそう言って、重ねた数枚の紙を示した。
事務の手伝いか。だったら、天女といえども最低限の感謝はすべきだよな。



「「…………」」



静寂が訪れる。

天女はその場に立ち止まったまま、近づく様子はない。


そりゃそうか。

簡単にあしらえるとしても、こんな敵意剥き出しの動物に近づくなんてよほどの……いや、昔いたな。
無防備すぎる天女。
何番目かは思い出せないが。



「あーっと、ここに置いておきますか」

「……いや、後でもう一度届けてもらえませんか」



天女は快諾してくれた。
そのまま後ろに下がり、十分な距離をあけてから背を向けて歩き去る。

しばらく後、犬たちは落ち着きを取り戻した。
慎重に宥めつつ、小屋に誘導、鍵をかける。



「……よし、これで大丈夫だ」



俺がそう言った直後、周囲から次々と大きく息を吐く声が聞こえた。
見れば一年生たちがへたりこんでいる。



「お前たちも緊張しただろ、よく頑張ったな」



屈んで手近な三治郎の背を擦る。



「ん?孫兵は?」

「伊賀崎先輩ならあちらに…」



虎若が示した方、虫小屋の前に孫兵がしゃがんでいる。



「もう大丈夫だぞ〜。きみこ、花子、花男、ジュン、ネネ………」



次々と虫たちの名前を呼んでいくことしばし。



「ジュンコ〜怖かったなあ。偉かったぞ」



ジュンコを撫でながらこちらに戻ってきた。

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kanayamamoto112(プロフ) - 水の術者の67話どのようなお話なのか凄く楽しみです。水の術者主人公君の武器は見つかったのか気になります。 (7月1日 10時) (レス) id: 763c9aa7d5 (このIDを非表示/違反報告)
kanayamamoto112(プロフ) - 水の術者主人公君と火の術者ヒロインちゃんの合流楽しみです。次は2人のうちどちらが登場するのか楽しみです。 (7月1日 9時) (レス) id: 763c9aa7d5 (このIDを非表示/違反報告)
kanayamamoto112(プロフ) - 待ってました。水の術者主人公君とタソガレドキの押都長烈さんの心理戦楽しみです。続き楽しみです。 (7月1日 1時) (レス) id: 763c9aa7d5 (このIDを非表示/違反報告)
kanayamamoto112(プロフ) - 続き楽しみです。 (6月30日 16時) (レス) id: 763c9aa7d5 (このIDを非表示/違反報告)
kanayamamoto112(プロフ) - 凄く面白いですし展開が楽しみでドキドキしてます。作者さん体調には気をつけてください。 (2023年2月5日 23時) (レス) id: 763c9aa7d5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ノート角 | 作成日時:2019年11月19日 15時

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