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あれは、私が親に内緒で大きな病院に風邪出来たときだった。

受付のベンチの上に、ひとつのスマホが置いてあった。
多分、誰かの落とし物だろう。

とりあえず、受付係の人にどけようとスマホに手を伸ばした。

ブブ・・・

すると、小さく音が鳴り、画面が明るくなった。

「何・・・これ・・・」

画面には、持ち主の日記らしき文が書かれてあった。

『今日、膵臓ガンということが分かった。とてもショックだったが、死ぬまでは今を楽しみたいと思う』

膵臓ガン・・・確か、発見するのも治療するのも難しい病気・・・。
死ぬ確率も高いとか・・・

「ねえ、」

背後から声をかけられ、スマホを落としかけた。


「・・・・・・楽雷・・・くん?」
「それ、俺の何だよね。返してくれる?」

後ろを振り向くと、私服の楽雷君がいた。
前の飛び降り以来、面と向かって話すのは初めてだ。
私はさっとスマホを渡した。

「これ、見た?」

これ、とは日記のことだ。

「うん」
「・・・そっかあ。俺、このことは家族以外秘密なんだけど・・・死にたい氷哀さんにだけおしえてあげる」




話をまとめると、彼は今年に膵臓ガンであることが発覚。
発見が遅かったため、今の治療法では治療が出来ない。
医者に言われた余命“1年がギリギリ”とのこと。


「だから、最期の一年悔いのないようにしようって。んで、ここにその日の思いをかいたりして残してる。まあ遺言みたいな?」
「・・・そう」

正直、驚いた。
あんなに元気な人がもうすぐ死ぬなんて。

「あ、このことは内緒にしといてね」

彼は、シーと人差し指を口元に当てた。

「お友達とかにいわなくてもいいの?」

ふと思った疑問を口にした。

「んー、俺はいいたくないな。だって、今が楽しいから」
「ふーん?」
「興味なさげだね。だって言ったら絶対心配してスポーツもろくにさせてくれないだろうし、顔合わせただけで泣きそうな奴らばっかだしさ。つまんないじゃん」
「ま、そうだね」

一理あるかも。

「俺たちだけの秘密ってなんかいーよなー」
「正しくは、家族さんも入るんだけど」
「そこいわないの」


こうやって誰かと話すのが楽しかったなんて思ってもいいよね。

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作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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作者名:悲哀 | 作成日時:2018年7月26日 16時

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