エリーゼのために ページ5
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「あんまり難しいのは弾けないから…好きな曲にするよ。『エリーゼのために』って曲。」
「かの有名なベートーヴェンだね。」
紫音が作曲者名まで蘊蓄気味に解説してやろうと思ったが、吹雪に先を越されてしまった。
いくら名前をよく聞くベートーヴェンとはいえ、曲名を聞いただけで作者まで言い当てるとは大したものだ。
「そう。知ってるんだ。」
「たまたまだよ。この曲名、本当は『テレーゼのために』だったっていう説もあるよね。」
流石に驚いた。
その説が初耳だったからではなく、ここまで詳しく知っていることに、だ。
しかし紫音も黙って聞いているだけでは知識で負けた気がしてならない。
練習の合間に聞かされた母の小話を覚えていたことに安堵した。
「字が汚くて読み間違えたって言われてるやつね。テレーゼは、ベートーヴェンが愛した女の人だったらしい。」
無論紫音はベートーヴェンやテレーゼに会ったことがあるわけないので、どこまでが実話かはわからない。
"『エリーゼのために』テレーゼ説" だって後の時代の人が有力な説として広めたものなのだから。
「じゃあ、この曲はベートーヴェンが愛する女性のために作ったのかもしれないね。」
「………言っとくけど、私はそんな深い想いとかないから。期待はしないで欲しいよ。」
「僕だって音楽に専門的な知識があるわけじゃないからね。審査員みたいなことは言わないさ。」
椅子は弾ける限界まで低く＋ペダルには台を置いてギリギリ足が届くぐらいなのだが、やはり家とは環境が違う。
いつも隣で演奏を聞いてくれるのは母やピアノの先生。
弾けるようになれば褒めてくれるし、間違えても落胆されることはない。
発表会は観客の大半が知らない人で１人１人の顔なんて舞台からは見えやしないのだから、割と緊張なくやり切っている。
なので昨日知り合ったばかりの年上の男の子と２人きり…のこの状況に１番ビビっているかもしれない。
期待しないで、と演奏のハードルを下げられるところまで下げるという誇りの欠片もない行為をしたのはその緊張故だ。
しかし紫音は味わったことのない想いが込み上げてくる。
この優しい少年に、演奏を聞いて貰いたい。
弾き終えたら一言の感想と合わせて、いつものように柔らかく微笑んで。
「(私を最初に見つけてくれたのが吹雪士郎、君で良かったよ。)」
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ツナ(プロフ) - 怪盗あーるさん» わぁ、ありがとうございます！最近リアルでやらなきゃいけない事が溜まってるんですけど、更新途絶えないよう頑張ります(笑) (2020年4月27日 0時) (
レス) id: 04f33d8056 (このIDを非表示/違反報告)
怪盗あーる - いつも更新を楽しみにしています。これからも応援しています! (2020年4月26日 21時) (レス) id: 6e9264e8f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ツナ | 作成日時：2020年4月7日 18時
