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そして夕食の時間になった。目を擦りながら下階に降りると皆んな既に揃っていた。
アオイがご飯をよそってなほ達が運んでいる。
私が席に着くとすみがどうぞ、と茶碗を差し出してくれた。
「では頂きましょうか。」
師範の声に皆んなが手を合わせていただきます、と声を出した。私はいつも手を合わせるだけ。
本当は礼儀として良くないことは知ってる。沢山のご飯を作ってくれたアオイ達に対しても失礼だとはわかってる。
でも師範もアオイも、幼いなほ達も、何も言わずに理解してくれた。少しずつで良いから、焦る必要はないから、と。
つくづく良い姉妹を持てたなと感じる。恵まれすぎていて怖いくらい。
「アオイ、この生姜の佃煮とっても美味しいです。」
「本当ですか?良かったです!実はこの生姜、なほ達が切ってくれたんですよ。」
「まあ、皆んな包丁が使えるようになったの?」
「アオイさんに沢山教えて貰ったんです!」
猫の手なんですよ!と三人は皆んな猫の手をして包丁で切る動作をしてみせた。
師範はあらあら、上手にできますね。と妹達の成長を嬉しそうに褒めていた。
私もアオイに沢山教えて貰って料理や治療ができるように頑張った。
でも私は不器用だった。アオイみたいに要領良く物事をこなすことができないし、包帯すらろくに巻けない。絆創膏ひとつ貼るのさえ貼る場所を間違えてしまい、傷口に粘着剤のついた部位を貼り付けてしまったこともある。
料理なんて以ての外。包丁を使えば必ず自分の手を切ってしまい、何かを焼けば必ず真っ黒に焦がしてしまう。アオイは私の切り傷の手当や、焦げたフライパンの後始末に追われてしまう。逆に迷惑を掛けてしまう有り様だ。
だから私は刀を手に取った。これしかできることがなかった。刀を握ることでしか誰かの役に立てなかった。
「…どうしたのカナヲ?お料理美味しくなかった?」
考え事をしていたら無意識のうちに箸が止まっていたみたい。皆んな心配そうにこちらを見る。
「…ううん、大丈夫。凄く美味しい。」
そう言うとアオイは安堵した表情をした。でも何処か不安げだった。師範も同じ表情をしていた。
アオイが口を開こうとしたら師範がアオイ、と制止の言葉を掛けた。
しのぶ様…とアオイは呟き不安げな表情のまま何かを口にするのをやめた。
そしてこれ以上何か言うことはなかった。
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hikari - この作品、めちゃくちゃ面白いです! (2022年4月24日 19時) (レス) id: 65eb06c570 (このIDを非表示/違反報告)
美咲 - もし作ることができれば、『<番外編>』を、作ってほしいです。 できますか? (2022年4月7日 17時) (レス) id: 65eb06c570 (このIDを非表示/違反報告)
若菜 - 見ていて、悲しくなって、泣きそうになりました。素晴らしい作品ですね。 (2022年3月13日 15時) (レス) id: 65eb06c570 (このIDを非表示/違反報告)
琴音 - 切ないところもあったけれど、キュンキュンしました!ありがとうございました🙇 (2022年3月12日 17時) (レス) id: 65eb06c570 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうな(プロフ) - コメント失礼いたします。とても切なく、それでもあったかいお話で感動しました。同時に、このお話の夢主目線のお話も見てみたいなと思いました。もしお時間があり、いいなと思っていただけたらそんなお話も作っていただけたら幸いです。 (2020年11月3日 21時) (レス) id: 51a3f09150 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白霞 | 作成日時:2020年5月30日 19時