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「おはよ、菅原」
月島が左耳に手をかけると、コロッと最新機種の白いイヤホンが落ちてくる。机の上にあるiPhoneにはあるアーティストのアルバムジャケットが映し出されていた。
「なに聞いてんの、それ」
肩にかけていたカバンを机に下ろし、彼女が聴いていた画面のそれを指さすと、「ああ、これ」と月島はiPhoneをすっと差し出した。
『弟がいつも聴いてるから気になっちゃって。昨日の夜こっそりダウンロードしたの』
「へー、どんなやつ？結構良さそうなら俺も聴いてみたい」
椅子に座ったままガタガタッと椅子と一緒に彼女のほうへ体を近づけると、ふわっと甘いホワイトリリーの香りが俺の鼻先をくすぐる。
『切ない曲、かな。なんかそんな感じのやつ』
「ふーん…ちょっと貸して」
ひょいと彼女の左手にあるイヤホンをとって自分の耳に入れる。
アコースティックギターの音色と落ち着いた男性の歌声が頭の中に流れ込んでくる。
すごくおしゃれで心地が良い洋楽。だけどどこか切なさを感じてしまうのは、掠れた癖のある歌声がそうさせているんだろうと思った。
「…たしかにちょっと切ないな」
『ね、なんかちょっと意外でびっくりしてた』
「いつもこういうの聴いてるタイプじゃねえの？」
『うん、そうじゃねえの』
俺の口調を真似していたずらっぽく笑う月島を見て、ああ今日も可愛いなと思う。
くるんと綺麗に上を向いた睫毛に囲まれた大きな瞳、その水晶の中にずっと自分が映っていればいいのに。そんなことを考えてしまう。
「つ、月島さん」
大人しそうな女子が遠慮がちに俺たちに声をかける。おどおどとしている彼女の目線は俺たちとは合わない。名前はなんだったっけ。いまいち思い出せない。
「あ、あああの、……あそこにいる人が月島さんいるか…って」
クラスメイトの指差すほうを見ると、このクラスには似ても似つかない目立つ格好をしたギャルがこっちにぶんぶんと元気よく手を振っていた。
『あれ、みちだ』という月島の呟きとともに、空間を繋いでいた音楽とホワイトリリーの甘い香りが俺の鼻先から遠く離れる。
『ごめん菅原。ちょっとお呼ばれ』
「あ、うん、…行ってらっしゃい」
来訪を教えてくれたクラスメイトに「ありがとう」とすれ違い様にお礼を言って、月島はギャルがいるほうへと駆けよっていく。
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作者名：たなかさん | 作成日時：2024年2月25日 19時
