6.『素敵な人』 ページ6
「♪〜」
シルビア「素敵ね、その曲」
声もかけずにまた突然言ってしまったから、今度は腰掛けていた樽から裏方ちゃんは落ちた。
そしてまた、その子に手を貸した。
その時触れた手は、暖かく優しい、男らしくない手だった。
この時も、裏方ちゃんは触れてはいても体重は乗っていなかった。
それから他愛ない話の後、一緒に旅をしないかと聞いたがあっさり断られてしまった。
少し残念、旅先でも彼の歌を聞いてみたいと思っていたのに。
しつこく言わず、また会えることを願い裏方ちゃんと別れた。
次の日、王子様の16歳の誕生祭の式典に参加することとなった。
その時のすごく素敵な走りをする王子様に私は感銘を受けて控え室へ向かうと、背格好の同じ男の子が一人。
なんだ、替え玉だったのね。王子様はズルをしていたなんて。
残念な気持ちで出て行き、宿屋に帰ろうとするとサーカスのテント内がやけに騒がしいのに気がついてこっそり聞き耳を立てた。
「私は、今日で辞めると言ったんです」
団長「急に言われても次の日町までそんなに遠くないんだぞ?!」
団員「それに君が準備や点検してくれたおかげで今までいいパフォーマンスができていた。君はもう立派な一員なんだ!」
あら、なんだかとっても険悪な雰囲気。
そっと、その場から離れようとしたその時…
「それでも、私はここにとどまることはできない。どんなに金を積まれても、どんなに脅されたとしても、夢を追う人間として出来る内にやらねば、必ず後悔すると私は知っているので…給料も要らないので。私はこれで…失礼」
裏方ちゃんこっちくるじゃない!!
私は慌ててその場から離れ、人混みに紛れた。
やっぱり、あの子は素敵な人だわ。
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作者名:トラ若 | 作成日時:2020年4月10日 0時