＊ ページ19
「今日、どうする？」
「せやなあ、イルミネーションとか見よかなと思ってたけど、夜んなるまで結構あるしなあ」
「いいね。写真撮りたいな」
「ええなあ」
彼がぷかぷかと煙を吐くと、紫煙がゆらりと綻び解ける。白い指でこれまた白い煙草を挟みながら、今日やりたいことを彼はするすると並び立てていく。
服が見たい、ご飯はあそこで、イルミネーションを見て写真を撮って、そのあとは。
……この男は、全てが終わったあと私を抱くだろう。
いつもそうだ。体目当てなのだろうなと思う。体目当てのくせに酷く優しく私を抱くから、離れられないし拒めない。
暗がりの中私を射抜くあの青い瞳を、私は密かに求めている。
「イルミネーション、めっちゃ綺麗なとこ探しといたから、楽しみしててな」
柔らかく破顔するその顔が、私に触れる指が、瞳の温もりが、私の心を縛る。どうしてそんなに優しいのだろう。毒のように病のように私を侵し、肺を締め上げるその感情は、きっとふつうなら二人の間で共有されて然るべきもので、でもきっと私は彼を微塵も縛れてなんかいなくって。そう、だから。
だから、私の心が癒える事はないだろう。と、思う。彼が私に触れる度、好きだと甘く囁く度、私の心は蝕まれ、やがて朽ち果て腐り落ちていくだろう。貴方は綺麗なままでいる。醜く溶け落ちる私を、その時貴方はどんな顔で見るだろう？せめて、どうか、美しく微笑んで、見送って欲しいと思う。それが駄目なら、その時まではいっそ、その痛いほどの優しさを享受させてほしい。
そう──その時までは。私は愚鈍にもそんなことを思う。店員が無愛想に差し出した、傍らのフルーツティーは、未だ熱く湯気を立てていた。クランベリーの匂いがする。赤い実は琥珀色の水面に揺蕩っている。
私の恋は実らない。この夜明けの瞳をした美しい男は、きっと青いままの私を摘み取って、そして私を殺すだろう。
「今日もほんまに可愛ええよ、やっぱお前のことすきやわ」
目を伏せた私にそう囁いた声の、甘く、優しく、苦いことと言ったらなかった。
……彼女の責務というものがある。優しく、明るく、可愛らしく、適度に謙虚であることだ。だから私は今日もそうあろうとして、自分の心に蓋をする。
きっと貴方も、こんな私を好んだのだろうから。ねえ、いつか私を捨てる時は、きっとこの恋心も握りつぶして棄てて行ってね。
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野々宮蓮花(プロフ) - 唐揚げさん» こんにちは。コメントありがとうございます！そう言って頂けてなによりです。まだまだ沢山の作品が続きますので、引き続き楽しんで頂けたら幸いと存じます。どうぞよろしくお願いします！ (2021年1月25日 20時) (
レス) id: 720637d64b (このIDを非表示/違反報告)
唐揚げ(プロフ) - どの作品も少しドキドキ？しながら読ませていただきました。ut先生オンリーということで似たような作品が並ぶのかなぁと思いましたが、バリエーション豊かで楽しかったです。 (2021年1月25日 19時) (レス) id: 6975836a4f (このIDを非表示/違反報告)
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