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「手ぇ、冷たいな。どんだけ待っとったん」
「そんなに待ってないよ」
彼の気遣うような台詞に、嘯きながら微笑むことすら慣れてしまった。嘘、本当は結構待った。待ち合わせより五分と少し、早くついてしまっていたから。でもそれを言うのは、「いい彼女」っぽくはない。
煙草臭い腕に抱き着きたい気持ちが、ないでもない。寒いからとか理由をいくらでもこじつけて、そうやって甘えることだってできたのだろうと思う。
それでもやっぱり躊躇が先に立つのは、多分私が彼を信頼しきれてない証なんだろう。
彼は優しいから、甘い言葉を巧みに操って、女の子をその気にさせるのが上手いから。
私は所詮、たまたま今彼のお気に入りなだけの女で、代わりはきっといくらでもいるのだと、そう思ってしまう自分を、もう随分前から知覚している。可愛くない女だと自分でも思う。盲目的に彼を信じられれば、さぞかし楽だっただろう。
でも、私はもうそこまで少女ではいられなかった。彼という人の、花のような性質を、蝶を寄せ集めてしまう魅惑の甘さを、知らないではいられなかった。大人の私はそれを知っていて、さもその花が自分のものであるかに振る舞うのだ。
暗い思考を押し込めて、笑顔を作って彼について行く。少し歩いた先、寒いからと手頃なカフェに入って、空いた座席に向かい合って座った。
あたたかい珈琲と、紅茶。私が何か言う前に彼が注文を済ませていた。自分で注文するの、苦手な癖に。私といる時だけ、そうやっていい男ぶるところも、ずるい。
顔を少し歪めてしまって、気付いて慌てて取り繕った。いけない。あくまでも楽しそうにしていなければ。私は「いい彼女」であらねばならない。
「ありがと、うつ」
「ん〜？かまへんよ。吸ってええ？」
「いいよ、聞かなくたって」
古いカフェは座席で喫煙できるところも多い。鬱は煙草に火をつけて、ふう、とそっぽを向いて煙を吐いた。色素の薄い唇が少し窄まって、その整った形を歪めた。
その唇を、赤く染めたことがある。
私から、綺麗な形で肌に移ったそれは、5ミリかそこらややずれて、彼の唇と口の端を扇情的な赤色に染めた。
その色があの時は、あまりに、なぜだか、美味しそうに見えてしまって。そういえば赤は食欲を増進させる色だったなと思い出す。ちょうど、よく熟れた林檎や苺のように。
キスしたいな、と思った。思い出してしまうと、途端に彼に触れたくなってしまっていけない。
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野々宮蓮花(プロフ) - 唐揚げさん» こんにちは。コメントありがとうございます！そう言って頂けてなによりです。まだまだ沢山の作品が続きますので、引き続き楽しんで頂けたら幸いと存じます。どうぞよろしくお願いします！ (2021年1月25日 20時) (
レス) id: 720637d64b (このIDを非表示/違反報告)
唐揚げ(プロフ) - どの作品も少しドキドキ？しながら読ませていただきました。ut先生オンリーということで似たような作品が並ぶのかなぁと思いましたが、バリエーション豊かで楽しかったです。 (2021年1月25日 19時) (レス) id: 6975836a4f (このIDを非表示/違反報告)
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