先生は知っている。 ページ10
中堂が所長室から出ると、三澄と東海林の愉しげな声が聞こえてくる。
毎日厭きないものだ、と煩わしさを通り越して感心さえするようになった。
「そういえばこの前異性間交流会にAさん誘ってみたんだけどー、なかなか良い返事くれなくってねー」
お前か東海林！
中堂は言葉にする代わりに、思い切り舌打ちをした。
――――――――――――
必要に迫られラボ近隣のコンビニに出掛けたのは数日前。
「中堂先生こんにちは。」と頭を下げられ、誰だ分からん顔を上げろとよぎった言葉が聞こえたかのように、目の前の人物は顔を上げ「お世話になっております。」と発した。
日頃見掛ける際のスーツ姿と違い一瞬判別出来なかったが、出入り業者のAだった。
「ああ。どうも。」
「あれ、中堂さーん。」
最低限の挨拶を交わしたのも束の間、別の自身を呼ぶ声に少し出てきただけで人とよく会うものだなと半ばうんざりそちらに視線をやる。
誰だお前は、と感じるとほぼ同時に、「木林か。」と口から相手の名前が漏れた。
見馴れない出で立ちだ。
その考えに今度は木林が返事をするように、「今日はオフでして。」と愛想笑いを浮かべている。
そうか、と返事をして立ち去ろうとすると、例のこととは別件で少しお耳に入れたいことが、と木林が一歩距離を詰めてきた。
店の外で話してくるからちょっとだけ待ってて、とAに声を掛けて、中堂を店外へ導く。
「何なんだ。」
「あまり口外していないのですが、交際しておりまして。」
「それが」
「非常に困っています。合コンなどに誘われてきて。」
予期していなかった回答に気が滅入りそうになった中堂は間をおいて、「知るかそんなこと」と眉を顰めた。
「彼女に何かあれば相手を灰するだけなのですが。」
「お前が言うと冗談に聞こえん。」
「おや。冗談だとお思いですか。」
薄ら笑う木林にどっと疲れ、「戻る。」とやっとのことで絞り出して踵を返した。
――――――――――――
「お前のその交流会とやらに他人を巻き込むな灰になりたいか！」
気が付くと中堂は悲鳴にも近い怒鳴り声を上げていた。
静まったオフィスで恐る恐る久部が近付き、「中堂さんコーヒーでも飲みます？」と言うので黙ってカップを突き出す。
「えっ、中堂さんなに怒ってんの。」
「中堂さんが怒ってんのはいつものことじゃん。」
心底どうでもいい。
所長室のソファにどかりと腰をおろし、中堂は片手で額をおさえた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
沢崎(プロフ) - KANONさん» はじめまして。読んで頂いてありがとうございます。書きたい場面は色々ありますが、文字に起こすのが難しくて。お言葉が励みになりました！木林さんの素敵さを少しでも表現したいです^^ (2018年4月27日 3時) (
レス) id: a5bf5d2b75 (このIDを非表示/違反報告)
KANON - はじめまして。木林さんのお話が読めて嬉しいです。不思議な怪しい魅力を持つ木林さん。何度も読み返してしまいます。これからも素敵なお話が続きますように‥ (2018年4月25日 0時) (レス) id: 1ebeb777d3 (このIDを非表示/違反報告)
沢崎(プロフ) - りこさん» はじめまして、コメント有難うございます！私も放送が終わっても木林さんのことを考えたくて書いています。イメージとかけ離れてしまわないか表現を迷っているので木林さんファンの方からそのようなお言葉を頂けて本当に嬉しいです。ぜひまたいらして下さいね^^ (2018年4月7日 2時) (レス) id: a5bf5d2b75 (このIDを非表示/違反報告)
りこ - はじめまして。ドラマ終了後も木林さんが頭から離れず、沢崎さんのお話に出会えた時は本当に震えました。毎作品、読み終えるのが勿体なくて、ゆっくりゆっくり読ませて頂いています。言葉選びがとても綺麗でこの喜びを250字では語り切れません。有り難うこざいます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: 27c3e3ee96 (このIDを非表示/違反報告)
沢崎(プロフ) - さくらさん» 訪問及びコメント、ありがとうございます！言葉の表現や情景は練っているつもりなので、とても嬉しいお言葉です^^また遊びに来て頂けると嬉しいです(´―｀* (2018年4月2日 23時) (レス) id: a5bf5d2b75 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：沢崎 | 作成日時：2018年3月22日 22時
