あえかに、唄う。 ページ19
いつもその声を聴いて、眠りに就きたい。
――――――――――――
「また頼む。」
いつもより色を付けた報酬は念押しのサインなのだろうか。
受け取ると紙幣からは枯葉の様な、かさついた音がした。
今日は酷く頭が痛い。
この件に限らず、御遺体が彼女や自分と同世代の人物のものであることなど珍しいことではない。
だというのに、喉の奥に苦みを感じて、軽口でも叩かなければ歯軋りが出てしまうのではないかと思うほどだった。
「中堂さんの様な医師になるには、どのような資格が必要なのでしょうか。」
お世辞にも態度が良いとは言えない。
あ、と怪訝そうな声をあげ、質問の意図を語ることを促しているのか、これ以上話をしたくないのか、汲み取ることが容易ではなかった。
付き合いの深い業界のことだ、全く知らない訳ではない。
なんでもない、世間話の様なものだ、答えてくれずとも構わない、言葉を選んでいると先に「何が言いたい」と返ってきた。
「いえ。私も死と向き合う職業柄、」
思うところがある、そういったものが言葉にならなかった。
喉の奥の苦みが鬱屈したものに変容していく様な感覚だった。
万一、彼女に不自然な死がもたらされたとき。
自分ではない誰かに彼女の死が委ねられてしまうのかと考えただけで慄然とする。
例えばきっと、この人の腕はきっと信用に足るのだろう。それでも、
言葉を続けないことを不審に思われているだろうと笑顔を作って目の前の人物を見つめ直すと、寧ろ先ほどよりも柔らかい表情に変わっていたように見えた。
「今日は随分と酷い顔だな。」
「いつでもこの顔ですよ。」
は。と労りとも嘲りとも取れない短い笑い声を漏らして、「飯を食え。音楽でも聴いて眠れ。」と彼は踵を返した。
――――――――――――
耳元の呼び出し音がふっと割れる。
「はい。もしもし。」
「A。」
「うん、どうかした。」
「どうもしない。ただ、声が聴きたくなって。」
そう、嬉しいな。と照れたような笑い声が漏れ聞こえ、目を閉じた。
「ねぇ、歌でも唄ってよ。」
「えっ。」
「中堂さんがそうすると良いって言うから。」
何それ、と非難めいた台詞を口にしながらも楽しげに笑うAの声は、心地好い音楽に確かに似ていた。
wohlgefalle_kus03→←freundschaft…？_kus02
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沢崎(プロフ) - KANONさん» はじめまして。読んで頂いてありがとうございます。書きたい場面は色々ありますが、文字に起こすのが難しくて。お言葉が励みになりました！木林さんの素敵さを少しでも表現したいです^^ (2018年4月27日 3時) (
レス) id: a5bf5d2b75 (このIDを非表示/違反報告)
KANON - はじめまして。木林さんのお話が読めて嬉しいです。不思議な怪しい魅力を持つ木林さん。何度も読み返してしまいます。これからも素敵なお話が続きますように‥ (2018年4月25日 0時) (レス) id: 1ebeb777d3 (このIDを非表示/違反報告)
沢崎(プロフ) - りこさん» はじめまして、コメント有難うございます！私も放送が終わっても木林さんのことを考えたくて書いています。イメージとかけ離れてしまわないか表現を迷っているので木林さんファンの方からそのようなお言葉を頂けて本当に嬉しいです。ぜひまたいらして下さいね^^ (2018年4月7日 2時) (レス) id: a5bf5d2b75 (このIDを非表示/違反報告)
りこ - はじめまして。ドラマ終了後も木林さんが頭から離れず、沢崎さんのお話に出会えた時は本当に震えました。毎作品、読み終えるのが勿体なくて、ゆっくりゆっくり読ませて頂いています。言葉選びがとても綺麗でこの喜びを250字では語り切れません。有り難うこざいます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: 27c3e3ee96 (このIDを非表示/違反報告)
沢崎(プロフ) - さくらさん» 訪問及びコメント、ありがとうございます！言葉の表現や情景は練っているつもりなので、とても嬉しいお言葉です^^また遊びに来て頂けると嬉しいです(´―｀* (2018年4月2日 23時) (レス) id: a5bf5d2b75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：沢崎 | 作成日時：2018年3月22日 22時
