iridescent clouds

wohlgefalle_kus03 ページ20

「おかえりなさい。」

扉が開く音がしたのでお出迎えに出てみると、南雲君は玄関先に立ったまま、しげしげと私を眺めた。
やっぱり急に来てしまって迷惑だったかなぁ、と少しずつ不安になってくる。

「帰って来たら、家に可愛い生き物がいた。」

そして南雲君の発した言葉はただいまといったありふれた挨拶ではなかった。
生き物って。

レンズを跳ね上げて改めて私に視線を合わせる。
昨夜電話をくれたときあまり調子が良くなさそうだったけれど、細められた目はとても穏やかで少し安心した。

「美味しい匂いが漂っている。」
「簡単なものだよ。野菜と豚肉蒸しているところ。」
「今日早かったの。」
「この前休日出た分の時間休とったの。」
「A。」

名前を呼ばれて、訊き返す前に南雲君は両手で私の肩を引き寄せる。
綺麗な顔が近付いてきて頬に口付けられると、彼の髪の毛がすぐそばで揺れてくすぐったい。

「ただいま。会えて嬉しい。」

声と吐息が頬にかかって、あたたかい。

「もしかして、昨日心配かけたかな。」

電話のことを言っているのだろうけれど。
元気がなさそうだとか心配だというのは、結局自分が南雲君に会いたいがための口実に過ぎない。


「声聞いたら会いたくなったの。勝手に上がっちゃってごめんね。」
「鍵渡してるんだからごめんねってことはないけれど、連絡貰えた方が確かにいいかな。」

そうだよね、ごめんね。と言い直そうとするとそれを遮るように言葉を続ける。

「帰ってくる途中もわくわくしたいから。」
「わくわく。南雲君可愛い。」
「ああ。多分弱っているんだ。甘やかしてよ。」

冗談めかして言うけれど、きっと本当に疲れているんだろう。
そんなときは、温かい物を食べるだとか、ありふれたことが助けになる。

私が少し背伸びをすると、どうしたの、という表情で南雲君は顔を近付ける。

今度は私が頬にキスをすると、彼は満足そうに笑った。




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頬の上なら厚情のキス

総て花を帯ぶ→←あえかに、唄う。

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