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総て花を帯ぶ ページ21

「恐れ入ります。」
「はい。」

声を掛けられ向き直ると、故人の御子息が申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
何か問題でも起きたのだろうか、と一抹の不安がよぎったものの、躊躇いがちに発せられた言葉は少々意外なものだった。


「赤い薔薇、ですか。」
「ええ。私は非常識ではないかと言ったのですが...」
「私からも改めてご要望をお伺いしてよろしいでしょうか。お母様と過ごされる大切なひとときのことですから。」


故人の御主人が別れ花として赤い薔薇を希望されているということであった。
聞けば、御夫婦での習慣で毎年この時期に赤い薔薇の花を贈っていたのだという。
確かに一般的ではないだろうが、故人との思い出の花で見送りをしたいという意向は尊重したい。


「赤い薔薇を一輪ご用意致します。」
「すみません、父がご無理を。」
「いいえ。思い出のお花を贈られることは、お母様にとっても喜ばしいことでしょう。」


御主人は花とともに贈る準備をしていたという本を添えた。
薔薇の赤は個人の白い肌を染めるようで、また涙さしぐみ頬を紅潮させた御主人の表情はこの御夫婦の永い恋路を思わせ、とても美しかった。




――――



「わぁ。」

Aに一輪の赤い薔薇を手渡すと、それこそ花を咲かせたような笑顔と感嘆の声を浮かべた。
職業柄、生花が身近なもので贈るものとしてあまり意識して来なかったかも知れない。
こんな表情を見られるなら、あらゆる花を贈って思い出の一輪を見付けることもできるだろう。

「あ。サンジョルディの日かぁ!」

Aは突然、南雲君お洒落だね、私何も用意してない、と楽しげな色を濃くする。

「何の日だって。」
「サンジョルディの日。カタルーニャで大切な人に薔薇や本を贈る習慣があるんだよ。」

あの御夫婦の思い出はそのことだったのだろうか、と合点がいく。


「今度一緒に本屋さんに行きたい。薔薇のお礼をさせて。」
「お礼なんて構わないけれど。本屋には行こう。」
「あ、それから、来月時間が合えば、」
「分かった、薔薇園だ。」

すごい、正解。と彼女は屈託なく笑った。

「行こう。―Aが望むなら何処へでも。」

わざとらしく口にした気障な台詞。
嬉しそうに頷く彼女を見て、また恋に落とされる。

grin like a Cheshire cat→←wohlgefalle_kus03



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設定タグ:アンナチュラル , 木林南雲 , 夢小説   
作品ジャンル:恋愛
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沢崎(プロフ) - KANONさん» はじめまして。読んで頂いてありがとうございます。書きたい場面は色々ありますが、文字に起こすのが難しくて。お言葉が励みになりました!木林さんの素敵さを少しでも表現したいです^^ (2018年4月27日 3時) (レス) id: a5bf5d2b75 (このIDを非表示/違反報告)
KANON - はじめまして。木林さんのお話が読めて嬉しいです。不思議な怪しい魅力を持つ木林さん。何度も読み返してしまいます。これからも素敵なお話が続きますように‥ (2018年4月25日 0時) (レス) id: 1ebeb777d3 (このIDを非表示/違反報告)
沢崎(プロフ) - りこさん» はじめまして、コメント有難うございます!私も放送が終わっても木林さんのことを考えたくて書いています。イメージとかけ離れてしまわないか表現を迷っているので木林さんファンの方からそのようなお言葉を頂けて本当に嬉しいです。ぜひまたいらして下さいね^^ (2018年4月7日 2時) (レス) id: a5bf5d2b75 (このIDを非表示/違反報告)
りこ - はじめまして。ドラマ終了後も木林さんが頭から離れず、沢崎さんのお話に出会えた時は本当に震えました。毎作品、読み終えるのが勿体なくて、ゆっくりゆっくり読ませて頂いています。言葉選びがとても綺麗でこの喜びを250字では語り切れません。有り難うこざいます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: 27c3e3ee96 (このIDを非表示/違反報告)
沢崎(プロフ) - さくらさん» 訪問及びコメント、ありがとうございます!言葉の表現や情景は練っているつもりなので、とても嬉しいお言葉です^^また遊びに来て頂けると嬉しいです(´―`* (2018年4月2日 23時) (レス) id: a5bf5d2b75 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:沢崎 | 作成日時:2018年3月22日 22時

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