iridescent clouds

die Achtung_kus01 ページ16

「な、んかこれ、恥ずかしいね。」
「そう。」


南雲君は事も無げに応え、ずっと私の手に触れている。
正確に言えば、私の爪の手入れに勤しんでいる。


「そんなに荒れてるかな、気を付けてはいるんだけれど。」
「別に。荒れているとは思っていない。」
「南雲君女子力高いね。」
「そうでもない。」

目の前の作業に集中しているのか、返事は短い。

さっき手を浸けていた洗面器のお湯は冷めてきたようだった。
プッシャーまで持っているなんて知らなかったし、彼がこんなことをしたくなるほど自分の爪はケアが行き届いていなかっただろうか、とほんの少し落ち込んでしまう。
手許を眺めるために彼は伏し目がちで、呆れられているのかどうかも確かめることが出来なかった。


程無くして、オイルを塗り終えた南雲君はやや得意げに視線を合わせてきた。

「お待たせしました。」
「わ、ありがとう。」

彼が磨いてくれた爪はいつもよりも特別に輝いて見えて、とても嬉しい反面、複雑でもあった。
最近あまり手入れ出来ていなくて、と言い訳がましく話すと、彼は目の前で小さく首を傾げている。

「Aの爪は綺麗だよ、荒れてないって言わなかった。」

確かに、言ったけれど。
どう応えたら良いか分からなくなった私に、合点がいったような顔をする。

「最近従業員の研修の一環で、手先のケアについての講座に来てもらって。」

手袋着けていることは多いけれど、荒れる仕事も多いから。と続けながら、彼は私の手の甲を撫でる。
フォレストさんの研修制度は手厚いな、等と考えていたら、南雲君はそのまま触れていた場所に唇を寄せた。


肩が震えてしまった私に、にっこりという言葉の通りの笑顔を浮かべて

「いつも頑張り屋さんのAに敬意を込めて、何かしてあげたくなったんだよ。」

なんていうから、ありがとう、とお礼を言うだけで精一杯になってしまった。




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手の甲なら尊敬のキス

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