【ツイステ】亡き王女の為のアスター

＊ ページ10

「もう戻ってよい」

逃げ去った元従業員のことなど既に眼中に無い様子で、恐怖の女王はこともなげに言った



「皆(みな)、これからも励みなさい」

激励とも脅しとも取れる言葉を残して総長は踵を返す



はらりとドレスの裾が翻った







カツン







カツン








カツン








…カツ、









……









不意に、高い音が止む


皆がみんな、一体どうしたのだと女王の一挙手一投足を目で追いかけた







「……何をしている」



しばしの沈黙の後

総長の口から発せられたのは地を這うような低く恐ろしい声だった





「お前は誰だ」


ベールで覆われた顔だが、彼女がどこを向いて話しているのかは容易に分かった





「は…？」


話しかけられた相手＿＿＿＿ユウちゃんが眉を寄せて下から総長を睨み返す

ユウちゃんは何故自分が見下ろされているのか分からないようだった


私も分からない




「いつからここは共学になった」


だけど、総長のその一言で彼女が言わんとすることをここにいる全員が理解した




「はぁ…？」

分かってないのはユウちゃんだけ









刹那






「総長ーー！サラウォート総長ーー！」





重苦しい空気の中、突如響き渡ったのはこの城の長、学園長の叫びにも似た大声だった





「いやぁいやあ、まさか今日いらっしゃるとは思いませんで！いついらっしゃるのかともう私手をこまねいて」

「クロウリー」

「ハイ」



しかし女王が不機嫌な事をいち早く察した学園長は鷲に睨まれたカラスのように身を縮こまらせた






「この者はなんだ。見たところ女のようだが」

「へ？ ……あ、あー！監督生さんのことですね！いやあ実は訳がありまして…」

「何も報告になかったが、どういう了見だ」

「え、えーとその…」




わぁ、あのちゃらんぽらんな学園長が言葉を迷ってるよ

相変わらず総長って凄いんだなぁ…





「それともうひとつ。やけに鬱屈としたオーラが学園に漂っているが…


……まさか、誰かがオーバーブロットした訳じゃないだろうな？」


「ヒョエ、イエ、ソンナコトハ…」


総長の纏う空気が重くなった

ていうか学園長は誤魔化すの下手すぎ



「オバブロってもう結構前だよな…？なんで分かるんだ？」

「俺空気変わったとか全然分からん…」


ひそひそと話す声があちこちからする



総長はまたひとつ息を吐くと、未だ憮然とした表情で睨んでいるユウちゃんに向き直って言った






「女、立て」

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