第22話 ページ22
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「ったく、店ん中で刃物を投げるわ、言いたい事好き勝手言うわで、何だかんだ料理番としてうちの店に冷淡野郎が働くのか。精神的にちょっと危ねぇんじゃねーの?」
足下からそんな声が聞こえた。
ルノアールの両眼がぎろりと剣呑になり、発言者をとらえた。
丸々とした大きな体に、ピンクの肌。長い睫に愛らしい黒い瞳。鼻はつぶれ、耳は長く垂れ下がっている。肢体は床につき、お尻には渦巻いた短い尻尾があった。
それはどっから見ても豚だ。
「おいおいホーク。こいつは野郎じゃなくて娘だぞ?」
メリオダスが訂正させると、えっ?と言うような顔をされた。
大抵男だと判断されるのが多いせいか、ルノアールは別に気にしていない様子。
「随分と口が達者な豚だな」
――縛り上げて焼豚にするぞ。
そんな声がホークには聞こえた気がして「ひいっ!」と身を竦める。その反面。
「な、何だ!?やるのかコラァッ!?いいぜ、この残飯処理騎士団団長ホーク様が相手してやる!!」
口は強きだった。
プゴッと鼻息を荒くし威嚇するホークに、メリオダスは「あ、こいつ馬鹿だな」と呟いた。
その時、掃除を終えたエリザベスが腰に手を当て此方に近づいて来た。
「そんな事言ってはダメよホークちゃん!」
「エ、エリザベスちゃん!…でもよこいつ」
得体の知れない奴じゃないか。そう言いたげなホークに、窘めて言い聞かせた。
「ルノアール様はいい人よ。私の話を聞いてくれ、力になってくださるんですから」
両手を前に組み合わせ、にこっとルノアールに向け微笑む。
清らかなエリザベスの笑顔を浴びせられ圧倒されたが、ルノアールは視線を逸らし。
「……優しさだけで生きていけると思ったら大間違いだ」
ひっそりと呟いた。
氷を肌に押し付けるような感覚がエリザベスとホークに襲うが、しかし間を置く暇も無くルノアールが緊張を解すよう、僅かにフッと笑ってみせた。
「なんてな」
「「な、なんてなって……」」
たじたじになりながら、エリザベスとホークの声が合う。
本人にバレないようじっとルノアールを見ていたメリオダスも、何か思い当たる事があるのか眉を下げていた。
しかし、すぐに気を取り直し、カウンターから離れた。
「俺キングに用があっから、ちょっと行って来るな」
「メリオダス様…?」
ひらひらと手を振りながら店から出ていったメリオダスを目で追いかけた。不安を覚えたが、きっと気のせいだとエリザベスは振り払った。
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