3.王の財宝・貴方のための物語(2) ページ17
大きな、大きな大きな溜息を吐き散らかす。この件については己に続く最古参の二騎にすら共有していないというに。千里眼持ちはとくに面倒だ。
星の弓兵、太陽の申し子、こちらには居ないが孤独の園で見下ろす花の魔術師。彼らとて空気を読み干渉せず傍観を決め込んでいたのにも関わらず、この我様と言えば、ああ面倒臭い。
だが、先程の言葉に含まれる真意と、恐らくその千里眼で見えたのだろう未来という現実。目を逸らしては己が後悔することになるのだろうと仕方なく、本当に仕方なく口を開いた。
「……存在証明などと、そんな"現在"では事足りんのだ。英雄にも満たぬ作家に出来ることと言えば精々この程度だが。しかしあいつに注がれた並々ならぬ魔力。そして真に英雄として讃えるあの子供の期待に、俺は応えねばならん。童話作家とはそういうものだろう?」
「震える手で握る筆を…"並々ならぬ"と騙るのか?」
「……」
服の下が呪いに汚染されていることは到底気付いていようが、作業用だと誤魔化し続けていた両手のグローブはこの賢王が右手に携える鎧と同じ。その由来すらやはり知られていたか。
「壊死しているだろう、その手。…最早それは足りぬのではなく、溢れているのでもなく、故障しているも同じだ。返還か…良質な魔力でも注がれぬ限り到底治らぬ物。
しかしそれでも尚。己を貫くか…やはり、文豪に仕立てられた男よ」
かつて認められた己が信念と語り。曖昧ながらやはりそこに居た人畜無害が今のマスターに似て、改めて現在すべきことが危機迫ることに目を閉じる。
「…さすがに目敏いな、女の化粧の変化に気付くタイプか? 貴様。
しかし批評ならTPOを弁えてからにしてくれ、今は少しでも時間が惜しい。
それとも、その無駄に溜め込んだ財を褒美にくれる、というのなら話は別だがな」
天使が通る。
数分の児戯、互いに逸らさず、譲らずの戦い。しかして先に開いたのは賢王だった。
「戦死以前に過労死などされては雑種が困るであろう。故に、だ。…無駄に消費するなよ」
何度目かの溜息、全く。最初からそのつもりだったろうにやたら裁定に時間を潰して、歳を重ねても変わらんものかと、かつて逢った英雄王の方を思い出す。だが…与えられる助力は真に救いだった。
マスターのサーヴァントとして、そしてマスターに代わり、礼を告げて立ち上がる。
共に掲げた魔杖と筆を重ね、詠唱を始めた。
―――合体宝具"王の財宝・貴方のための物語"
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作者名:らんぱく | 作成日時:2019年11月17日 7時