第百二十九話 ページ30
肩を並べて歩いていると、ふと思い出したように先生が聞いてきた。
「お前、当然のように歩いてるから忘れてたが、足は大丈夫なのか?」
「え? あぁ……あの怪我のことですね。はい、包帯巻いてますけど傷はふさがってます」
毎晩暁が保湿クリームや跡を残さないようにするクリームを塗ってくれてる。嫁入り前が……とかぶちぶち言ってるけど、一日も欠かしたことがないのでおかげさまで傷跡はひどく残ることはなさそうだ。それでも完璧に治るわけではないけれども。
「痛みももうほとんどないですし。たまにいきなりズキッてきますけど、すぐに収まりますし……ご心配をおかけしてすみません」
「いや、気にすんな。そっか、ならよかった……」
心底安心したように息を吐く先生に、思わず頬がほころぶ。
暁が毎晩クリームを塗ってくれてることを話すと、「お前の兄神経質だな」と彼は笑った。
「……じゃああんま心配しなくていいか」
「え?」
ぼそりとつぶやいた彼の声は、喧噪に紛れてよく聞こえなかった。
彼を見上げ聞き返すと、彼はあらぬ方向を見ながら真顔を保っていた。オレンジ色の街あかりに照らされた彼の端正な顔は、少し緊張しているようにも見える。
「……その、結局かなり流されただろ」
「流された……? 何がです?」
「……動物公園」
あ、と私の口があんぐり開く。
忘れていた。とっても忘れていた。そして確かにかなり流された。二か月くらい流されたんじゃないだろうか?あのチケットはまだ使えるのだろうか。
「ちょうど来月末で期限切れだから……行くなら早めに行くかと思って。中間も終わって、お前のスケジュールも落ち着いてるだろ」
「それは……はい、そうですけど……」
「なんだ、何か都合が悪いのか?」
無意識に唇がとがる。小さなへの形を描いた私の唇に、赤らんだ頬はきっと私の言葉よりもうまく私の心境を語ってくれるだろう。
そしてきっとそれを目撃したらしい先生は、ごまかすように私の頭を撫でて髪の毛をかき乱す。
「……悪く、ないです」
「……そうか、じゃあ今週末、行くぞ」
「…………はい」
先生と歩幅をわざと少しずらして、遅れて歩く。両手で自分の頬を包んだ。熱い。
体全身が心臓になったみたいに、バクバクとうるさい。
教師と生徒で出かけること、それ自体モラル的にも禁止されている。今までそれはただ私達を愉快犯にしただけだった。
今はもう、それどころではなくなっている。
この感情に、名前がついてしまったから。
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - みっちゃんさん» ありがとうございます!これからもバンバン頑張ります!一気に読んでくださってうれしい…これからも何卒よろしくお願いいたします!! (2019年5月11日 19時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
みっちゃん - このお話大好きです!一気に読んだんですけどすっごい楽しいです!これからも頑張ってください! (2019年4月4日 2時) (レス) id: b4edfa4067 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - あだ名がンゴって…さん» うわー!ありがとうございます!そういっていただけただけですごくうれしいです。コメント励みになります。これからも頑張らせていただきます! (2019年4月1日 21時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
あだ名がンゴって… - 初コメ失礼します。あなたの文才、ください(切実)めっっっっちゃ好きですもうなんなんですか大好きです。更新頑張ってください!!! (2019年3月31日 11時) (レス) id: d0cbd630d9 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - セツナさん» うっありがとうございます(泣)尊敬に値するようにもっと文才磨きます!ゆっくり亀さんに呪われていますが頑張って更新させていただきます! (2019年1月9日 22時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2017年6月25日 13時