【2】サド教師とツンデレ生徒【名前変換オリジナル】

第七十六話 ページ27

「今日はありがとうね、姉御ー！」
「明日、またよろしく頼むわ」

そんな挨拶を交わして、帰路につく。
あたりはそれこそ「絵の具を零したような赤」で、だけど「泣きそうな赤」ではなかった。
警戒色である赤色を、「悲しそう」だと感じたことはない。
そのかわり、
「これから真っ暗で長い夜がくるんだよ」って
そう教えてくれる、色だった。

だからこんな色を見てしまった日には、自然と足が早くなる。
早く家に着いて……あぁ、今日は胡桃たちは外食だっけ。
私も夕飯かってかえらないと。

憂鬱な気分は終わらない。
それどころか新しく憂鬱になる理由を模索し、そして私を苛み続ける。
「いつか終わりがくる」なんて言葉は、子供の頃から一番嫌いだったっけ。

「いらっしゃいませー！」

自動ドアが私を受け入れてくれる。
壁にかかっている時計を見れば、二本の針が真下に向いている。
おなか、すいてないな。

「テキトーにパンでも買おう」

スマホの画面を意味もなく眺める私。
息を呑む音がふと私の耳に滑り込む。
顔をあげて、手元の携帯を落としてしまいそうになった。

「せ……先生……」

偶然なんて、こんなもんだろう。
やってきてほしくないときにやってくるんだ。
そして私を……
……わからない。
私を、どこまで導くのかな。

「……邦月」
「……あ、すみません邪魔ですよね」

慌ててカバンを抱きしめ、後ろに下がることで道を開ける。
それを見た先生は何も言わず、無言で髪を掻き、空いたスペースを埋めるように私の前を通る。
ちらりと盗み見見た先生の手元には、おにぎりと惣菜。
私と同じように、夕食を買いに来たのだろうか。

あぁ、なんかやだな。
自分がすごく惨めだ。

なんでこんなことになったんだっけ。
先生が私に触れてきて、私はすごく恥ずかしくなって……
だから先生を拒絶した。

きっと、先生も気づいてた。
先生らしくない行動を取っていたこと。
あるまじき行動を取っていたこと。
だから、こんなにも気まずくなる。

そして私の拒絶は、私の態度は
きっと、先生を傷つけた−−。

慌てて振り返れば、そこにはちょうど会計を済ませ、自動ドアから出て行こうとする先生の後ろ姿が見えた。
いやだ。
せっかく会えたのに。

どうしてだろう。
いやだ。

「っせん−−」

彼の背中を追いかけようとした私の声は、そこで途切れた。
まるでバケツをひっくり返したような、突然の豪雨。

「……私の家、すぐそこです」

偶然は私をどこまで導くのかな。

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