９３: 決断 ページ43
HRが終わると、既に奏が教室の外で待っていた。
渉に抱きしめられて苦笑しているところに声を掛けると、渉は奏に何かを耳打ちして直ぐに去って行く。
「お待たせ」
奏「うん。じゃあ…帰ろっか」
一緒に帰るのは今までもあったことなのに、何だか改まると変な感じがする。
校門まで歩いた所で、俺の方から声を掛けた。
「決まった？」
奏「まあ、一応ね」
「で、どうする？」
何となく返事を聞くのが怖い気もして、声が少し小さくなってしまった。そんな不安を汲み取ってか、奏は遠慮がちに口を開く。
奏「結論から言えば、ユニットは解散した方が良いかなって思うんだ」
「俺もそう思う。そんで？結論から言えばってどういうこと？」
奏「僕さ、実はアイドルになりたかったんじゃないんだよ」
その言葉に驚いて、思わず返事を返し損ねる。奏はそんな俺の反応を笑った。
ごく軽い口調で、奏は説明する。
奏「兄さんが入った時に、どうして普通の高校に進まなかったのか不思議でさ。僕も入ってみようかと思って」
「ああ、なるほど。で、奏はアイドルじゃなくて何になりたいの？」
奏「作曲家だよ。アーティストに、あるいは企業に僕の音楽を提供して、それが色んな人の所へ届くんだ。そんなに楽しい仕事はないでしょ」
奏らしい答えに笑みを零して、柔らかい白髪をそっと撫でる。
こんなにも簡単に決断できるものを続けさせてきたことに罪悪感を覚える前に、もう手放してあげるべきなんだ。
立ち止まり、ひとつ深呼吸をして、じっと目を見つめた。
「日々樹 奏。ごめんな、ずっと不自由な学院生活を送らせて…何度も無茶言って」
奏「気にしてないよ」
「【Mask Phantom thief】……スタフェス終わったら、解散しようか」
奏「……うん」
綺麗な瞳に、キラリと涙が光る。
最近は人を泣かせてばかりだなぁ、なんて思って苦笑した。
さよなら、俺のアイドル。俺の相棒。
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作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2019年12月14日 3時
