戦え舞え舞え藤の花 (ページ21)

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21 不快な音ページ21

「桔梗、こっちの方角？」

私は(認めたくないけど)方向音痴だ。その代わりに記憶力は高い方なので、一度教えられれば基本的には覚えるのだけれど。

これは初めての道だから、時折桔梗に尋ねなければ迷子になるだろう。

頭を上下に揺らした桔梗を撫で、ザクザクと土を踏んで山を登って行く。

その道中で段々と、不快な音が聞こえ始めた。

ぐちゃぐちゃぐちゃ

みたいな。挽肉を捏ねるみたいな、でもそれよりも気持ち悪い不快な音。鬼だろうか…？

気持ち悪い音…

しかしその『気持ち悪い』と言う気持ちを共有してくれるであろう善逸は居ないのだ。

もしこの音の元が鬼ならば、"私が"殺さなければ。

隣に誰も居ないって、こんなにも心細いものだっけ…？

手がカタカタと震える。

でもやらなきゃ。善逸だって、何処かできっと頑張っている筈だから。

その音に一番近付きその光景を見た瞬間、吐き気がした。

ぐちゃぐちゃぐちゃ

確かに、肉を捏ねている。でもその肉は…

「は……っじ、人肉…？」

2.5メートル位の大きさの鬼。その鬼の隣に転がっているのは、微かな肉のみがこびり付いた人骨だった。

首から上が無い…

恐怖に、息が上がる。

この鬼は人肉を捏ねている…調理している…！

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い

そう。

こいつは鬼だ。

そう頭の中で唱えた瞬間、いつものように意識が途切れた。

ーーーNOside

「あはははっ人間だァ…！美味そうだなぁ美味そうだなぁ！」

「喋るな！気持ち悪い…汚い、気持ち悪い！」

「その口、今すぐ閉じてやろう！」

左目に刻まれた、『下肆』の文字。しかしその目にはバツ印のような傷があり、＂元＂下弦の肆であったことが刻まれている。

Aが大きく跳躍し、藤色の羽織りが風になびいた。

振り下ろされた刀を鬼は避け、Aに掴みかかる。しかしその手を、藤色の刀が斬り落とす。

「鬼ごときが私に触るなっ！！」

憎悪に満ちた目。憎悪以外を何も映さない目。

蔓の呼吸壱ノ型『羅生門蔓』

ーーーAside

気が付けば、目の前には鬼の首。いつも通りだ。

悔しげに言葉を紡ごうとするその口に刀を突き刺して、見下す。

「喋らないでよ。煩い…！」

そう言ったのと同時に、鬼の首は消えていった。

「………剣士になったのか」

「！」

驚いて、固まる。