戦え舞え舞え藤の花 (ページ19)

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19 蔓の呼吸ページ19

善逸side

Aは他の女の子とどこか違った。

いつもなら結婚してくれと縋り付いたら気持ち悪がられて叩かれたりするのに、Aは必死で"宥めて"くれた。

困った顔で顔を拭いてくれて、嬉しいのと安心したのとでまた滅茶苦茶泣いちゃったけど、それでも落ち着くのを待ってくれた。

あと、Aも耳が良いらしい。

遠くから聞こえてくる、何かが這う音。それに気付いて立ち止まったらAも気付いたらしかった。

普通の耳じゃ聞こえる筈ない。

ああ、俺と同じだ…

そう思うと何となく信頼できて、Aの言うことを素直に聞き入れて口を閉じた。

怖くて縋り付くと手を握ってくれた。

でもその手は…震えてた。

耳を澄ますと、Aからは怖がっている音がする。

その瞬間にハッとする。

当然だ。この子は女の子で、親とお姉さんを目の前で殺されていて…

俺も、しっかりしなきゃいけないんだ。

恐怖心が、半分になった気がした。

ーーーAside

「ぜ、善逸…聞こえる…？」

「ちちちち近い近い近いよぅ…！」

「ち、近いね…！」

落ち着け。音を聞いて。夜だからよく見えない。なら耳を使わなくては。

そう思った矢先、しゃがれた声が聞こえた。

「脚を…脚を返せ……返せぇ…！」

「ヒィイィッ！！！！！」

鬼

鬼だ。

こいつは鬼だ。

お母様とお姉様の命を奪った『鬼』の仲間だ。

ああ

_____殺さなきゃ。

そこで私の意識はプツンと途切れた。

ただ、頭の中で声が響く。

『殺せ』

蔓の呼吸壱ノ型羅生門蔓(らしょうもんかずら

気付けば、耳に届く叫び声。

「ギャアアァアァ！！」

「黙れっ！私の前で声を出さないで！お前ら鬼どもの声は耳に毒なの…！」

刀を鞘に収めて、怒鳴りつける。

完全に消滅してようやく、意識が戻ってきた。

目の前に何も無いのを確認してホッと息を吐く。

「………あ、殺せてた？良かった」

「Aちゃん…だ、大丈夫…？」

「え？だ、大丈夫だよ？いやいや何でそんなに怯えてるの！？悲しいよ！？」

「い、いや何でもないです！それより任務はお終いなの！？こんな所に居たくないんだけど！」

「私も！！ねぇ鴉！お終いなの！？」

〈オワリ！オワリ！〉

「はぁ……善逸、早く行こう。藤の家紋の家とか探そう」

「わ、分かった」

何故か自然に手を繋いで、私たちは駆け出した。