モノクロダイアリー【狗巻棘】

3. 別れまでの始まり ページ14

＊





「あ、えっと…」






黙って近くに寄った俺に、当然少女は困ったように目線を落とす。




パンダに助けを求めるように目で訴えると、やれやれと呆れた様子で通訳をしてくれて俺も、多分彼女もホッとした。







「棘……そこの子が案内してくれるってよ」


「あっ、ありがとうございます」







おずおずと頭を下げられて、どうしたらいいか分からない。




喋ってはいけないから手を引こうと思いたったが、

……やめた。





初対面の男子にいきなり手を引かれたら怖いだろうと思ったからだ。




黙って先を歩くのが最善かなと前を歩くことにした。




真希はむしろ俺の前をどんどん進んでいくタイプだし、この学校においてパンダは俺の先輩だ。なんなら悟よりも高専にいる年月は長い。



後ろから慌てて追いかけてくる気配が慣れないもので、なんだかくすぐったく感じたのは秘密だ。








「こ、……」







ここだよ。と言いかけたのではないことを、果たして彼女は気づいただろうか。




誤魔化すように《職員室》と書いてある札を指で示すと、「ここで大丈夫です」と彼女が言った。




俺が手を振ると彼女は少しはにかんで頭を下げて、そのまま職員室の中に消えていった。




大丈夫かな、と心配になったが、悟の声が聞こえたから大丈夫だろうと来た道を戻ったんだ。

3. 別れまでの始まり→←3. 別れまでの始まり

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す