あと、少し ページ19
NOside
「国木田さん」
「ん?何だ、谷崎」
谷崎は、机でボーっとし乍ら手元の写真を眺めている太宰を見た。
「ずッと気になってたンですけど、太宰さんッて偶にああいう風に写真を眺めてますよね。あれ、誰が写ッてるンです?」
ああ、あれか、と国木田は云った。
「さあな、よく判らん。何時も見てやろうと思っているのだが、その前に隠す。本人に訊いたらどうだ?」
谷崎は国木田に云われた通り、太宰本人に訊いてみることにした。
太宰は谷崎が近づいて来てる事に気づくと、サッと写真を懐にしまった。
「如何かしたかい、谷崎君?」
「太宰さんが持ってる写真ッて、何なンです?誰か写ッてるンですか?」
太宰は少し微笑った。誰にも理解されて貰えない、そう思ってるような笑みだった。
「ああ。友達だよ」
「へェ、太宰さんに友達なンて居たンですね」
「それは如何いう意味かな?」
太宰は一つ、小さな溜息を吐いた。小さくて重い、溜め込んだ溜息だ。
「あの頃は、楽しかった。仕事も楽だったし、友人にも恵まれていた」
皆、いなくなってしまった。否、織田作がいるか。だが、残った人はそれだけだ。
織田作との関係も、前と同じようにはいかない。何処か少し、未だぎくしゃくしたモノがある。
一方、太宰のあの頃が想像できない谷崎は、曖昧に頷いた。それ以外どうしろと云うのだ。
「どンな人だったンですか、そのご友人は?」
「……素晴らしい子だったよ。少なくとも、私達の処にいるべき人間じゃあなかった」
「太宰さんが其処まで云うなら、きッと本当にいい人だったンでしょうね。ボクも逢ってみたいです」
太宰の表情に、一瞬影が差した。だが直ぐに、何時もの人を見透かしたような笑みに戻った。
但しその目は、此処じゃない何処かに向けられていた。視線の先の何もない虚空には、彼にしか見えない風景が映っていた。
「……そう、だね。私も逢わせたかったよ。もう死んでしまっているがね」
「え、あ、済みませン!不愉快でしたよね……」
申し訳なさそうに谷崎が顔を俯かせた。太宰は気にしないでくれ給え、と笑い乍ら云った。
___彼らが出会うまで、あと少し。
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白夜の世界 - 2次元大好き野郎さん» コメントありがとう御座いますッ!最高でしたか!よかった!何かちょっとリクと違うかなって思ってたんですけど……嬉しいです! (2019年7月7日 20時) (レス) id: d483191461 (このIDを非表示/違反報告)
2次元大好き野郎 - コメント遅れてしまってすいません!まじ最高です! (2019年7月7日 10時) (レス) id: 6de8be71fd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界 - オンさん» 応援ありがとう御座います……!更新頑張ります!遅いけど!出来るだけ!遅いけど! (2019年7月6日 21時) (レス) id: d483191461 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ(プロフ) - 白夜の世界さん» はい!大丈夫です! (2019年7月6日 21時) (レス) id: b4cdd55349 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界 - わたあめさん» は、はい!難しそうですが、頑張ります!太宰さんと太宰さん(黒の時代)逢わせちゃってもいいですか? (2019年7月6日 21時) (レス) id: d483191461 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2019年4月7日 16時