二百五 降る雨が止むように ページ5
「うるさいな」
黒雨は顔をそらすと私の体を掴んでいた手を引っ込ませた。
きっと私は今、余計なことをしているんだ。
同じ気持ちになったことがあるから、どうしても他人事のようには思えなかった。
黒雨は私に背を向け、体を縮こませた。
「……自分でできないならそこにいる奴に頼めば」
「……そこ?」
黒雨は怠そうに私の背後を指さした。
まさかと思い、恐る恐る振り返ると予感は的中。
「……また勝手に何をしているんだ」
「す、すみません……」
オロチさんは私の頭を片手で掴んだ。
怒られるかと思ったらそんなことはなく、優しく撫でただけだった。
「……説明は必要ない。全て見ていた」
オロチさんは私の隣に腰をおろすと何かする訳でもなく、私の顔をじっと見つめた。
「貴様のことは今すぐにでも私が手を下したいところだが、少しだけ待ってやる」
私はオロチさんに頷き、黒雨の肩を揺さぶった。
だけど返事もなにも返ってこなかった。
声をかけても無視を決め込まれた。
降り続いていた雨が酷くなっているようで、ぽたぽたと雨漏りを始めた。
「──……滝雨」
その名を口にした途端、黒雨が飛び起きて頭を抱え込んだ。
「そんな名前……もうない……‼そんな、そんな目で……‼その目で俺を見るな……っっ‼」
ゴロゴロと雷が鳴り始めた。
黒雨は顔を覆い、むせび泣いた。
こういう時、どうしたらいいんだっけ。
どうしてもらったんだっけ。
──……そうだ。
私は黒雨の手を無理矢理に掴んで引き離し、首の横から手を回しそっと胸に抱きしめた。
ぎゅっと、ぎゅーっと抱きしめる。
疲れてしまったんだ。
悲しい感情が溢れてしまったんだ。
きっと今抱えている感情は一人ではどうにもできない。
降る雨が止むように、悲しい感情が涙として出て止むまで私は子の手をはなさなかった。
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剣城京菜(プロフ) - aruya100さん» ありがとうございます!!頑張ります!! (2019年2月8日 9時) (レス) id: 6021a386db (このIDを非表示/違反報告)
aruya100(プロフ) - いつも見させていただいてます。更新頑張ってください!期待してます! (2019年2月4日 23時) (レス) id: b60ccdc28b (このIDを非表示/違反報告)
剣城京菜(プロフ) - yukiさん» ありがとうございます!!頑張ります!! (2019年1月30日 19時) (レス) id: 6021a386db (このIDを非表示/違反報告)
yuki - 作品楽しませていただいてます。続き頑張って下さい! (2019年1月30日 8時) (レス) id: 01053ecf80 (このIDを非表示/違反報告)
紅桜(プロフ) - 剣城京菜さん» 頑張ります...! (2019年1月23日 19時) (レス) id: 84fb339dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:剣城京菜 | 作成日時:2019年1月21日 21時