百二十 黒猫 ページ20
トンネルの中は暗く、出口は見えない。
ただ真っ直ぐ歩いていく。
その間何を思い浮かべたのかというと、私が妖魔界に来てからのことだった。
どの場面にも思い出すのはあの人の顔。
「オロチさん……」
その名を呟いては胸が苦しくなる。
きっと最後に会えなかったのが心残りなんだ。
次第に足は止まり、後ろを振り返る。
ついさっきまでのことなのに懐かしく感じるのは何故だろう。
寂しいと思うのは何故だろう。
暗闇しかない奥を目を細め、見えないものを見ようとした。
見えないと分かり、生まれた感情を理解しようとするまでに私は薙ぎ払うように踵を返し走り出した。
走り続け、走る先に小さな光の粒が見えた。
その光は膨らみ、覆いこむように私を包んだ。
「うわ……っ」
光から飛び出した瞬間、足を踏み外し派手にコケてしまった。
どうやらここは駅前のようだ。
目の前には金の卵の像が相変わらずぴかぴかと輝いていた。
駅前にある大型ビジョンを見上げ、時間をみると17時と表記されていた。
『それでは次のニュースです。さくら住宅街に住む行方不明とされていた当時18歳の……さんが……』
他人の訃報など気に止めることなく、私は走って帰路についた。
今日は何曜日だっけ。
指を折り数え、今日が日曜日であることを知ると両親が家にいることになる。
どんな顔をするのだろう。
学校は?
私がいない間どうだったのだろう。
私は想われているのだろうか。
僅かな期待を抱き、足が早くなる。
私の家のピンクの屋根は相変わらず派手だった。
門の前で桜風という表札を確認する。
鍵を開け、ぎぃと音を鳴らし押し開けると黒猫が横切った。
私の顔をみると黒猫は歩みを止め、こちらを振り返った。
黄色のアーモンド型の瞳が私を見つめる。
そんなとこにいられては家に入れない。
黒猫は瞳孔を開き、毛を逆立てると走り去っていった。
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紅桜(プロフ) - 楽しみにしてます♪頑張ってください! (2018年12月11日 20時) (レス) id: 84fb339dd8 (このIDを非表示/違反報告)
剣城京菜(プロフ) - 紅桜さん» ありがとうございます!今作は大変長編となっていますので、今後も楽しんでくれると嬉しいです(^^♪ (2018年12月11日 18時) (レス) id: 6021a386db (このIDを非表示/違反報告)
紅桜(プロフ) - まさかの展開で驚きました...!とてもおもしろかったです!続きがきになります(≧∇≦) (2018年12月10日 21時) (レス) id: 84fb339dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:剣城京菜 | 作成日時:2018年10月14日 12時